A132
民主政治の前提と新聞企業の役割

 6月22日の読売新聞は、「年金記録漏れ、苦情10年前から 国民生活センターに50件/内閣府発表と言う見出しで、次のように報じていました。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
 内閣府は21日、1997年度から2006年度までの10年間で、国民生活センターに寄せられた年金に関する苦情相談が2439件あったことを明らかにした。民主党の長妻昭衆院議員に説明した。このうち、「支払った保険料が未納になっている」など記録漏れを指摘する事例が50件程度あり、長妻議員は「政府は10年前から年金問題(の存在)を把握しながら対策を講じず、反応が鈍かった」などと批判している。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------

 今回明らかになった年金の記録漏れは、極めて大規模かつ広範囲にわたる不手際で、これだけの不祥事件が、全くマスコミに報じられることなく長年経過して、今日の大事に至ってしまったことについて、読売新聞は何も感じることはないのでしょうか。国民に情報を提供することを使命とする新聞社に、反省すべきことはなかったのでしょうか。

 記事によれば、多くの苦情が行政機関に寄せられていたとのことですが、新聞社には消費者からの情報の提供が全くなかったのでしょうか。あるいは記者がそれらの情報をキャッチすることはなかったのでしょうか。情報提供がなかったとすれば、彼らは国民・読者から信頼されていないことの表れだと思います。また、情報をキャッチできなかったのだとすれば記者として無能と言わざるを得ないと思います。
 情報源は消費者だけに限りません。これだけ大規模・広範囲の不祥事について、社保庁内部及び関係者からの情報も全くとれていなかったとすれば、彼らの情報収集能力はお粗末という他はありません。

 このような問題は今回の年金問題に限りません。今年2月16日の読売新聞は、英会話学校「NOVA」の問題について次のように報じています。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
 英会話学校大手「NOVA」(統括本部・大阪市)に対し、経済産業省と東京都が特定商取引法に基づく立ち入り検査をしていたことが16日、わかった。同社を巡っては、契約時に生徒が支払う料金と、解約時に同社が払い戻す料金の体系が異なることから全国でトラブルが相次いでおり、経産省では、こうした契約が同法違反(不実の告知)にあたる可能性もあるとみて調べている。・・・
 全国の消費者センターには2005年度、解約方法などに関して1000件を超える苦情や相談が寄せられた。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------

 これだけ大規模なクレーム事件について、役所が発表するまで問題を取り上げてこなかったというのは、年金問題と全く同じ構図です。新聞が報じるのは、常に役所の会見を受けてのものであり、記者が動き始めるのはそれからです。日本の新聞記者には取材能力・情報収集能力がなく、情報源は役所の発表であることがほとんどです。
 彼らは役所の発表を受けると、それまでの無能・怠慢を覆い隠し、取り繕うために、すでに明らかになったことを執拗に、かつ過激に報じて取材対象に対して打撃を与えるのが常ですが、取材対象に制裁を加えるのは新聞企業の役割ではありません。

 また、これらの事件の際には記者会見が行われるのが通常ですが、記者会見とは、本来会見者の話を聞くためのものです。しかるに、彼らはそこで会見者の話を聞くよりも、自分の意見を述べ、会見者を追及することに熱心なことがしばしばですが、これは国民の代表でも、読者の代表でもない彼らの役割ではありません。業務上の立場を悪用していると言うべきです。

 彼らは取材能力に欠け、読者に必要な情報を提供するという、新聞企業としての本来の役割を果たしていません。彼らは新聞紙上に読者が必要とする情報を掲載する代わりに、自分の意見を掲載しています。

平成19年6月24日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ