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裁判員制度を巡る、朝日新聞のネガティブ・キャンペーン

 11月30日の朝日新聞(asahicom)は、
「裁判員候補 どうしよう、通知きちゃった」という見出しで、次のように報じていました。
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裁判員候補 どうしよう、通知きちゃった

 フリーター、単身赴任の会社員、交通の便が悪い遠隔地の住民……。「あなたが来年の裁判員候補者に選ばれました」という通知が29日、続々と届いた。「どうしよう」「行かなきゃいけないの?」。人を裁くかも知れない現実に直面し、戸惑う声があちこちで聞かれた。

 「うわー、こんなの来ちゃったよ」。思わず叫び、封筒のあて先を見直した。横浜市のフリーターの男性(25)は29日の昼過ぎ、郵便受けに、はみ出さんばかりに入っている大きな封筒を見つけた。

 昨晩見たテレビCMの中で風間杜夫さんが持っていた封筒と同じもの。CMを見ながら、弟(24)に「来たら嫌だな。いつかは当たるのかな」と話していた。

 「まさか、今日当たるとは。宝くじの逆。運が良ければ、当たらないですよ」。同封の小冊子を読んでみたが、「裁判のことなんて分からないし、参加に意味があるのかも分からない。でも、断る理由もなさそうだし……」。

(中略)

 三陸海岸沿いの岩手県宮古市に住む自営業者の女性(58)も封筒を受け取った。「自分の意見が誰かの人生を左右する」。そんな不安と同時に、興味も出てきた。「こんな機会はめったにない。私も常識的なことなら言えると思う」

 約100キロ離れた盛岡地裁までは列車かバスを使って2時間以上。列車は1日4本しかない。1時間に1、2本あるバスで行くことになりそうだ。「大雪の時は足が心配だけど、家族や店の従業員の協力があれば大丈夫だと思う」と話した。

 昼ごろ、通知を受け取った東京都内の自営業男性(54)は数年前、離婚がらみの民事裁判で被告になり、裁判所に通い詰めたことがある。今度は法壇から裁く立場になるかも知れない。「自分のような者が候補になるとは。せっかく社会の一員として認めてもらっているなら、力まず自然体で、法廷に足を運びたい

 「もったいない」。裁判員として参加を望んでいた神奈川県大和市の無職男性(65)の家にも、通知が届いたが、あて名は福祉施設に入所する義母(87)。認知症があり、耳もほとんど聞こえない。「33歳の息子も裁判員になりたがっていた。後ろ髪を引かれる思いで、調査票に『辞退』を記入します」と残念そうだった。

 東京都渋谷区の金融機関の男性会社員(34)は、通知が来たことを直属の上司に伝えるつもりだ。「自分の仕事がたまるだけなので、正直に言えば、呼び出し状は来てほしくないです」。一方で、実際に裁判員を体験した市民の感想は知りたい。「職場に影響がなかったかどうかや、生活がどう変わったのかが分かれば、後に続くほかの候補者も裁判に臨みやすくなると思います」と話した。(岩田清隆、延与光貞、中野晃)
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 裁判員制度が現実に近づくにつれ、朝日新聞の露骨なネガティブ・キャンペーンが熱を帯びてきました。この記事でも後半の部分では、裁判員を前向きに捉える人の声も報じていますが、こられの声は付け足しの観は否めず、見出しと記事は裁判員制度に対する否定的トーンで貫かれています。国民の賛否の比率が、記事に反映しているかも疑問です。

 朝日新聞の記事を、「裁判員制度」をキーワードにして検索すると、以下の記事がヒットしました。

「裁判員時代」記事一覧
○ 裁判員候補 どうしよう、通知きちゃった(11/30)
○ 裁判員辞退、最高裁は「柔軟に判断」(11/29)
○ 突然、裁判所に呼び出され… 「検察審査会」経験者語る(11/25)
○ 「制度反対」300人 都心を行進(11/23)
○ 手話通訳士、どう確保 「障害で排除しないで」(11/19)
○ 国選弁護人、報酬上げて 「時給800円」なのに負担増(11/17)呼び出し100人、○ 駐車場足りる? 名地裁苦慮(11/15)
○ 選ばれちゃった 友人・職場話していい? 家族○、飲み屋は△(11/13)
○ 「制度の重み」ドラマで 元弁護士の俳優も出演(11/7)
○ 外国人への質問、通訳戸惑う(10/30)
○ なぜ素人が法廷に? 動き出す裁判員時代(10/17)
○ 「あなたが候補」書類の見本公表 11月28日に発送予定(10/17)
○ 「島空ける」住民に不安 八丈・伊豆大島で東京地裁調査(10/16)
○ 「サバく」のは魚屋?お奉行? 賛成・反対ともに落語でPR(10/6)
○ 候補者、352人に1人 11〜12月に通知(8/30)
○ 判決への過程、リメーク名画で学ぶ ロシア版「12人の怒れる男」(8/26)
○ 審理経験後に改善点を質問 制度検証へ最高裁(8/18)
○ 都内の裁判員候補3万人超 311人に1人、年内に通知(8/16)


 どの見出しを見ても、裁判員制度の大きな意義を肯定的に報じる記事は少なく、裁判員制度の本質とは別の、枝葉末節の問題を捉えて、読者を否定的な方向へ誘導しています。枝葉末節の問題ならいくらでも解決策はあるにもかかわらず、朝日新聞が枝葉末節の問題を前面に持ち出して来るのは、それが単なる口実で、本当は裁判員制度そのものに反対だからだと思います。 民主政治を支持するという建前上、露骨に反対できないために、論点をすり替えて裁判員制度に対するネガティブ・キャンペーンをしているのです。

 それでは朝日新聞はなぜ裁判員制度に反対なのでしょうか。それは、一般国民から選ばれた裁判員は、決して朝日新聞が論じているような判断をしないと察知しているからだと思います。朝日新聞の主張は、多数の国民が支持するところではないことが、露見してしまうことをおそれているのだと思います。

 朝日新聞が裁判員制度に反対なら反対で、それは意見としてやむを得ません。しかし、それなら社説にでも書いて正面から裁判員制度反対論を論じるべきです。「素人が裁判に口を出すのは危険である」、「裁判は専門家(職業判事、弁護士、検事、大学教授、新聞記者など)に任せておくべきだ」、「素人は新聞記者の解説記事を読んで、新聞社の期待通りの反応を示せばそれでよい」。そう言って本音を書くべきです。
民主政治に反対する本音を書くべきです。
 枝葉末節の問題にすり替えて、裁判員制度に難癖をつけるのは、
読者を欺く姑息で卑劣な反対論と言うべきです。

平成20年11月30日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ