A157
世論と議会の乖離はなぜ生じるのか−銃規制とアメリカ議会 “慰安婦”と日本の地方議会−


 9月18日の読売新聞と、9月19日の産経新聞はそれぞれ、「『軍施設で乱射』米衝撃 警備課題 規制も進まず」、「米、また乱射事件も 見通し立たぬ銃規制 世論賛成も議会は慎重」と言う見出しで、次のように報じていました。
---------------------------------------------------------------------------------------
2013.09.18 読売 東京朝刊 外A
「軍施設で乱射」米衝撃 警備課題 規制も進まず

 【ワシントン=白川義和】ワシントンの海軍施設で16日に起きた銃乱射事件は、首都の軍施設でも銃犯罪を阻止できない現実を浮き彫りにした。多くの死傷者を出す乱射事件が相次いでも銃規制が進まないことに、米社会では無力感が漂っている。
 オバマ大統領は16日の演説で「我々は再び、銃乱射事件に直面している。今日は首都の軍施設で起きた」と沈痛な表情で語った。

(中略)

 オバマ大統領は昨年12月にコネティカット州の小学校で児童ら26人が死亡した銃乱射事件を受け、銃購入時の身元確認を義務化する法案を推進した。「ガン・ショー」(銃の展示即売会)やインターネットを通じた取引なら、犯罪歴のチェックなしで銃を購入できる抜け穴を防ぐ狙いだった。世論調査では90%が支持していたが、法案は今年4月、上院本会議で否決された。
 大統領は16日の演説で「再発防止に向けて最善を尽くす」と語るだけで、銃規制強化には踏み込まなかった。乱射事件が起きるたびに銃規制を求める世論が高まっても、銃擁護のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)が議員に働きかけ、法制化を阻止する構図は変わらない。
 ワシントン・ポスト紙は社説で、惨事が「何度も、何度も、何度も」繰り返されていると指摘し、
無力感をあらわにした。
-------------------------------------------------------------------------------
2013年09月19日 産経新聞 東京朝刊 国際面
 米、また乱射事件も 見通し立たぬ銃規制 世論賛成も議会は慎重

 ■上院、厳しい/下院、絶望的
 【ワシントン=小雲規生】米国の首都ワシントンの海軍施設で起きた銃乱射事件を受け、議会で銃規制強化の議論が再燃している。与党・民主党議員が見据えるのは今年4月に上院で否決された銃規制強化法案の再審議。銃売買時の経歴チェックの拡大が盛り込まれた法案は、繰り返される惨劇の歯止めになるとの期待もある。しかし、民主党指導部は、上院通過は厳しいとみて現段階での再審議には慎重だ。また、共和党優位の下院の通過は絶望的で、銃規制強化実現の見通しは立っていない。
                   ◇
 「大多数の米国民は、こんなことは常識だと考えている」。ダービン上院議員(民主党)は17日、銃の売買時に購入者の逮捕歴などをチェックする制度の拡大を訴えた。ファインスタイン上院議員(同)も乱射事件があった16日、「銃暴力の議論を再開せねばならない」との声明を発表した。

(中略)

 しかし4月に否決されたばかりの法案の再審議には慎重論も多い。民主党のリード上院院内総務は17日、経歴チェックの重要性を指摘しつつも、可決に必要な票数は「確保できていない」と強調した。また、たとえ上院で可決されたとしても共和党優位の下院の通過は「絶望的」(政治専門サイトのポリティコ)だ。民主党のホイヤー下院院内幹事は同日、「否決されたものと同様の法案を投票にかけても見通しは明るくない」と述べた。

 米調査会社ギャラップが1月に行った世論調査では、全体の9割が経歴チェックの強化に賛成。それでも4月の上院での採決では、共和党議員の大半が反対に回り、賛成票は可決に必要な60票を下回る54票にとどまった。銃規制強化に反対する団体のロビー活動が影響したためとされる。

 今月10日にはコロラド州で銃規制強化の州法成立を推進した民主党の州議会議員2人へのリコールが成立するという逆の動きも出ており、規制強化への道のりは険しいようだ。
-----------------------------------------------------------------------------------------

 両紙の記事は国民の
90%と言う圧倒的多数が支持している銃規制が、議会では常に反対多数で否決され、成立が絶望的である事を報じています。一体どうしてでしょう。アメリカでは民主主義が機能していないのでしょうか。

 世論調査の結果と、議員選挙の投票結果に、なぜ大きな乖離が生じるのかを考えると、以下のような理由が考えられると思います。

1.国民・有権者の行動が矛盾している

2.世論調査の回答者と選挙の投票者が大きく異なる
  世論調査の対象者の選定の問題
  選挙の投票率の問題 世論調査に回答した人の多くが選挙の投票で棄権している等

3.世論調査の調査項目と選挙の争点が異なる
  銃規制は重要だが、選挙ではそれ以上に重要な別の争点が有り、銃規制に関する
  世論調査結果は選挙に反映しない。
  あるいは銃規制が選挙の際に争点にならず、マスコミにより争点隠しが行われている。

4.選挙では不正が行われている。選挙結果は民意を反映していない
  買収、選挙資金の問題

5.世論調査で不正が行われている。世論操作

6.議員の有権者に対する背信行為

 世論調査の結果と、選挙の結果が著しく異なるのはゆゆしき問題です。その理由は明らかにされなければなりません。ワシントンポストは現状に対して無力感をあらわにしているとのことですが、マスコミとしてジャーナリストとしてなすべきことがあると思います。
 彼等はなぜそれをしないのでしょうか。

 一方、10月8日の産経新聞は、「【新帝国時代】第6部 歴史認識の蹉跌(3)島根県議会が慰安婦意見書」と言う見出しで、次のように報じていました。
----------------------------------------------------------------------------------
【新帝国時代】第6部 歴史認識の蹉跌(3)島根県議会が慰安婦意見書
2013年10月08日 産経新聞 東京朝刊 1面

 ■自民までも賛成、危機感なし
 ◆身内の対応憤り
 「特定の社だけの取材は受けられない。これから本会議だから…」

 島根県議会が開会した9月12日。議長の五百川純寿(いおがわ・すみひさ)(64)=自民=は言葉を濁して議長室へ消えた。

 同県議会では6月26日に「日本軍『慰安婦』問題への誠実な対応を求める意見書」を賛成多数で可決した。竹島(同県隠岐の島町)問題を抱え、国際問題には敏感であるはずの島根県で、なぜ自民までも賛成に回ったのか。記者の問いに五百川は答えようとしなかった

 根拠もなく旧日本軍による慰安婦募集の強制性を認めた河野洋平官房長官(当時)談話を基にした意見書は超党派によって提案され、民主、共産などに加え、自民も1人を除き賛成し可決された。

 《日本政府は1993(平成5)年『河野談話』によって『慰安婦』への旧日本軍の関与を認めて、歴史研究、歴史教育によってこの事実を次世代に引き継ぐと表明しました。(中略)日本政府がこの問題に誠実に対応することが、国際社会に対するわが国の責任であり、誠意ある対応となるものと信じます》

 採決の際に退席した自民党県議、小沢秀多(ひでかず)(63)は、「われわれ自民党はいわれのない批判に対し敢然と立ち向かい、日本人は強制連行をやっていないと言わなければならないのに、危機感がなさすぎる」と、身内の対応に憤りを隠せない。

 当初、小沢は本会議で反対討論をしようとしたが、自民会派の幹部から止められた。
 「異議を唱えるなら、ペナルティーを科さねばならない」
 小沢は幹部の冷たい言葉を次期県議選で公認しないという脅しと受け取った。心配した支援者らから説得を受け、小沢は反対討論を断念した。議場退席はせめてもの抵抗だった。

 ◆議長選バーター説
 議会関係者の間では「意見書」議案に自民党が賛成した理由について「議長選とのバーターだったのでは」といった噂がまことしやかにささやかれる。

 6月議会で五百川が議長に選出された際、民主会派は賛成票を投じた。自民と歩調を合わせたのは異例の対応だった。

 民主会派の会長、和田章一郎(66)は「そんなひきょうな話はない」と「バーター説」を一蹴したが、ただ一人反対した無所属の成相安信(なりあい・やすのぶ)(61)は「民主との水面下の根回しが優先されたに違いない」といぶかる。

 成相は議案の本会議提出を決めた総務委員会でこう訴えていた。
 「『河野談話』を追認すれば間違った歴史認識が独り歩きすることに島根県議会が手を貸すことになる」

 懸念する事態はすでに起こっている。
 慰安婦像を設置した米カリフォルニア州グレンデール市議会で7月9日、設置推進派の市議はこう発言した。
 「日本でも多くの市議会が慰安婦問題で決議している。私たちは正しいことをしているのだ」
                   ◇
 ■
「反日」勢力、自治体利用の危険

 全国の地方議会で、慰安婦問題をめぐり、公的謝罪や国家賠償などにつながる「誠実な対応」を政府に求める意見書や決議の可決が相次いでいる。

 意見書などの可決は平成20年3月の兵庫県宝塚市議会をはじめ、今年6月末現在で43議会に上る。21年9月の民主党政権誕生以降、
市民団体による働きかけが活発化し、民主や共産だけでなく公明会派も賛成するケースが目立つ。

 政権交代後の今年に入ってからでも島根県議会を含め4議会が可決した。各地の意見書は根拠がない慰安婦の強制連行を前提としており、
似通った文面が多いのも特徴だ。

 「県議会は信じられないことをやらかしたな」

 島根県議会の決議を受けて急遽(きゅうきょ)発足した「島根県議会の歴史認識をただす、実行委員会島根県民の会」の代表世話人、石原倫理(ともただ)(56)は、県外の知人からこうあきれられるという。

 意見書の撤回を求める石原の懸念は深い。

 「韓国に間違ったメッセージを出してしまい、もはや黙っていられない。このままでは他の自治体に広がりかねない。この問題を大きくしているのは日本人自身だ。本当に情けない」

 ◆米HPに虚偽記載

 意図しないところで地方自治体が「反日」に利用されたケースもある。慰安婦像がある米カリフォルニア州グレンデール市のホームページ(HP)に、姉妹都市の東大阪市が設置に賛同したかのような記述が掲載された問題だ。

 「姉妹都市交流もほとんど途絶えているのになぜうちの名前が出されるのか。まったく理解できない」

 東大阪市文化国際課長の米田利加(48)は、怒り交じりに首をかしげた。

 HPでは東大阪市を含めた6姉妹都市が碑や記念物の設置に興味を寄せていると表明した、としたうえで、維持のための基金は姉妹都市が賄う−などとありもしない内容が記述されていた。

 7月9日に記載を見つけた東大阪市は同月25日、「事実とまったく異なる記載」だとして修正を求める文書を市長の野田義和名でグレンデール市に送った。

 像設置について東大阪市には何ら事前相談はなく、基金についても了承した経緯は一切ない。そもそも東大阪市は像設置の動きを注意深く追いかけ、外務省に「有効な対抗処置」を求める意見書を送るなど、国内でも関係先に注意を促してきた。

 「なぜ抗議しないのか」「何もしないのか」。東大阪市には積極的な対応を求めるメールや電話が相次いだが、本紙が8月2日、「東大阪市がグレンデール市に抗議文」と報じて、流れが大きく変わった。

 「よく頑張っている」。ほとんどが市の対応を激励するものになった。6月24日から9月9日までに寄せられた意見は622件。像設置に賛意を示す意見はないといい、米田は「東大阪市の毅然(きぜん)とした対応が支持されている」と話す。

 ◆なしのつぶて状態
 問題は、グレンデール市に抗議文を送ってから2カ月が経過したものの、いまだに返答や具体的な動きはなく、なしのつぶての状態であることだ。いらだちを募らせた市は9月25日、修正を要求する抗議文を再度送った。

 米田は「姉妹都市提携の解消も選択肢の一つとして慎重に考えている」と、“次のステップ”を見据える。

 慰安婦問題におけるウソを指摘し続けてきた東京基督教大学教授の西岡力(57)は警告する。

 「悪意を持って日本の名誉を傷つけようとする
政治勢力が国内外にある中で、地方議会や自治体は、反日勢力に利用される危険性が高いことをよく考えなければならない」(敬称略)
------------------------------------------------------------------------------

 この“慰安婦の問題”は「銃規制」とは異なり、
世論調査がほとんど行われていないという大きな相違があるほか、日本人にとってアメリカにおける銃規制の問題と異なり、必要性がほとんどないばかりか、地方議会が取り扱うことが妥当とは言えない問題であるという違いがありますが、アメリカにおける銃規制の問題と同様、国民の意向とは無縁の議決が、次から次へと各地の地方議会で可決されていくという不思議な現象が起きています。

 それもほとんどがマスコミの報じるところではありませんので、国民の知らぬ間に決議が採択されているというのが現状です。銃規制の問題とは表面的に見れば構図が若干異なりますが、
世論と議会の乖離という点では共通の問題だと思います。

 アメリカの場合は世論調査が行われ、反対活動の実態も、議会の採決結果も報じられているようですので、国民は結果に深く失望することができますが、日本の場合は世論調査も行われず、議決を推進している団体の姿も、議決の事実もほとんど報じられていませんので、国民は失望することさえできない悲惨な状況です。

 銃規制は全米ライフル協会の活動が明らかですが、慰安婦問題ではライフル協会に当たる推進団体の姿が表面には見えません。誰も推進しない議案が議決されることはあり得ませんから、日本のマスコミは
水面下で議決を推進している者達の姿を、隠しているとしか考えられません。
 産経新聞は、「反日勢力」、「市民団体」と記事に書いていますが、なぜその実態に迫った、もう一歩踏み込んだ報道をしないのでしょうか。何か大きな障壁があるのでしょうか。

 銃規制の問題と、慰安婦の問題に関して、アメリカと日本のマスコミはどちらも国民の期待に応えているとは言えません。ワシントンポストは「無力感をあらわにして」終わり、産経新聞は、自民党議員までも決議に賛成したことを問題視し、背後の「反日団体」、「市民団体」の存在を指摘してそこで終わっています
 なぜ両紙は
そこで終わってしまうのか、これらの問題には深い闇があるように思えてなりません。

平成25年11月6日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ