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インターネットは無法地帯か

 自殺した人がインターネットを介して毒物を入手した事件に関して、産経新聞はインターネットを「無法地帯」と非難しました。「ホームページ開設者の間には、倫理などに関する明確な取り決めがなく、誰でも簡単に見ることができる“無法地帯”になっている」(12月26日朝刊)、「早急な規制必要、野放しインターネット」(12月27日朝刊)と言っています。
 誰でも簡単に見ることができる「自由」こそ社会の基本原則であり、これを「無法地帯」というのは自由の否定であり、自由の尊さを理解しない暴言だと思います。すべてに規制の網を掛けたがる官僚と同じ発想です。もし、自殺に関する情報を掲載したミニ新聞、ミニ雑誌があったとしたら、産経新聞は「新聞、出版業界は『無法地帯』だ」と言って、規制の必要を主張するのでしょうか。もし、毒薬が、郵便で送られていたり、あるいは通信販売で販売されていたら、やはり「無法地帯」だと言って郵便物のチェックや、通信販売の規制を主張するのでしょうか。産経新聞の主張は短絡的に過ぎます。

 新聞社が何の規制も受けずに、自由に新聞、雑誌を発行できるのが、言論の自由、表現の自由ではないのでしょうか。同じようにいかなる個人も自由に通信し、情報の発信をする権利が保障されていなければならないと思います。少数の不心得者がいることを理由にインターネットに規制の網をかぶせるべきではありません。警察や、郵政省などの「官」が何も言わないうちから、新聞社が真っ先に規制を主張することに不信を覚えます。インターネットの驚異的な進歩に情報の独占が脅かされると考え、営業上の脅威を感じている新聞社が、これをきっかけにインターネットを叩こうとしているのだと思います。彼らに言論の自由を語る資格はありません。自由は新聞業者だけのものではないのです。

 記事は「『自殺』と言うキーワードで検索すると二万件の情報が検索できる、『正しい手首切り自殺の方法』と言った複数の自殺方法の紹介から、自殺マニュアル本、自殺志願者の体験などが掲載されている」と言っていますが、二万件のすべてが「自殺幇助」のホームページであることを確認したのでしょうか。確認をしていないのなら、誤解を招く表現です。ホームページに反社会的な情報が満ちあふれているような誤解を与えます。私が少し見たところでは、ほとんどは自殺の心理や若者の自殺について、まじめに論じられているもので、「自殺の幇助」など見あたりません。ホームページはその数が膨大で、キーワードによっては、ひき方によっては数万件の検索結果が出ることは決して珍しくありません。
 産経新聞の主張には根拠がありません。言論の自由、表現の自由に対して無神経に規制を主張することに危惧の念を抱きます。

平成10年12月31日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ