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憲法記念日に合わせて実施された、NHKの「憲法改正世論調査」に見る世論操作と歪曲の数々
−お粗末が目立つ石川健治教授の"筋論"−

 5月2日のNHKテレビニュースは、「憲法改正 必要ある32% 必要ない24% NHK世論調査」というタイトルで次のように報じていました。
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憲法改正 必要ある32% 必要ない24% NHK世論調査
2020年5月2日 17時50分 NHK



 NHKの世論調査で、いまの憲法を改正する必要があると思うか、ないと思うか聞いたところ、「改正する必要があると思う」と答えた人が32%で、「改正する必要はないと思う」と答えた人が24%でした。戦争の放棄を定めた憲法9条を改正する必要があると思うか、必要はないと思うか、聞いたところ、「必要があると思う」が26%、「必要はないと思う」が37%でした。

 NHKは、先月3日から3日間、コンピューターで
無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行い、全国の18歳以上の男女、2681人のうち、58.2%にあたる1560人から回答を得ました。

いまの憲法を改正する必要があると思うか、それとも、改正する必要はないと思うか聞いたところ、
▽「改正する
必要があると思う」が32%
▽「改正する
必要はないと思う」が24%
▽「どちらともいえない」が41%でした。

同じ方法で行った
おととしの調査では、
「必要があると思う」が
29%
「必要はないと思う」が
27%と、賛否がきっ抗していましたが、今回は「必要があると思う」が「必要はないと思う」を上回りました。

是非の理由
「改正する
必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ「日本を取りまく安全保障環境の変化に対応するため必要だから」が50%と最も多く、「国の自衛権や自衛隊の存在を明確にすべきだから」が25%、「プライバシーの権利や環境権など、新たな権利を盛り込むべきだから」が11%、「アメリカに押しつけられた憲法だから」が10%となっています。

「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ「戦争の放棄を定めた憲法9条を守りたいから」が62%と最も多く、「基本的人権が守られているから」が17%、「すでに国民の中に定着しているから」が14%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が3%となっています。
9条改正の是非
戦争を放棄し、戦力を持たないことを定めている
憲法9条について聞いたところ、
▽「改正する
必要があると思う」が26%
▽「改正する
必要はないと思う」が37%
▽「どちらともいえない」が32%で、
「必要はないと思う」が「必要があると思う」を上回りました。

憲法9条について、どう評価するか聞いたところ、
▽「
非常に評価する」は27%
▽「
ある程度評価する」は48%で、
評価する」人は合わせて75%でした。
一方、
▽「あまり評価しない」は15%、
▽「まったく評価しない」は5%でした。

専門家「平時から改正含め議論を」
 憲法改正に向けた議論を進めるべきだという立場の関西学院大学の井上武史教授は、「
新型コロナウイルスの問題に対し、今の憲法が、十分に対応できてないという疑問を持った人が増えたことが影響したのではないか。まずは法律で対応できることを探っていくのが大前提だが、それだけでは対応しきれないことがある。急に議論するというのは非常に危険だと思うので、新型コロナウイルスの問題が終息したあとに、冷静に平時から緊急の備えについて憲法改正も含めて、議論すべきだと思う」と指摘しました。
一方、憲法9条については、「平和主義の理念は広く国民に浸透しているが、憲法と現実にかい離があると考える人もいる。こうした意見もくみ取り、議論すべきだ」と述べました。

専門家「緊急事態には法律で対応すべき」
 
今は憲法を変えるべきでないという立場の東京大学の石川健治教授は、「新型コロナウイルスに対する政府の感染対策の不備は、憲法に原因があると、結び付けて考える人がいたということだろう。法律で緊急事態に対応することと、憲法に『緊急事態条項』を設けることは、話のが別なので切り分けて考える必要がある。『緊急事態条項』によって、議会をとばして内閣が勝手に決められる仕掛けを用意することは、対応のしかたとして危険だ。緊急事態には法律で対応すべきで、憲法改正論に結び付けるのはが違う」と指摘しました。
一方、憲法9条については、「役割が再び評価されている。
自衛隊の存在を明記する9条『加憲』案の機運は、後退していることがうかがえる」と述べました。
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 まず記事は「
おととしの調査では、『憲法改正の必要があると思う』が29%、『必要はないと思う』が27%と、賛否がきっ抗していましたが、今回は『必要があると思う』が『必要はないと思う』を上回りました」とありますが、「今回は上回った」と言うのは前回も上回っていたことを否定したもので、事実を歪曲した報道です。
 正しくは「
おととしは必要があるが29%、必要はないが27%と小差でしたが、今回は必要32%、必要なし24%と差が拡大しました」と言うべきです。

 又、メインの質問が
改正する“必要があるか”“必要がないか”で問うていますが、これは改正に“消極的”な視点からの質問であり、本来は、改正はした方が“良いか”“悪いか(改正しない方が良いか)”で問うべきだと思います。政治は“必要なことだけ(最低限のことだけ)していれば良い”と言うものではありません。NHKは憲法改正等で否定的立場に立つ時だけ、こういう問い方をしていると思います。

 次に憲法9条については、
「評価する、しない」を問うていますが、これは一見すると改正の賛否を問うているように見え、NHKは「評価する」を改正反対と捉えているようですが、これは答える人によって基準が異なる可能性があります。特に「ある程度評価する」と言う選択肢は賛否いずれと解釈するかは、明確に出来ません。ある程度評価(改正に対する否定的評価)する部分があったとしても、その評価は高くはないのであり、改正案によっては、その評価を上回るメリットが評価されれば、「改正に賛成」もあり得ます。

 このNHKの質問・回答の選択肢は、単純・明快とは言いがたく、結果を
自分の都合の良い様に誘導する為の謀略的な質問だと思います。
 事実、NHKはこの部分の回答を「評価する」と「ある程度評価する」を区別することなく
合算し、「『評価する』人は合わせて75%」として、あたかも9条の改正には75%の国民が反対しているかのように結んでいますが、それは実態とは言えません。

 次にこの報じられたニュースを見て気付くことは、この世論調査に少なくとも
“新型コロナウィルス”に関する質問・回答選択肢は見受けられず、それにも関わらず二人の専門家(井上武史教授と石川健治教授)は、そのコメントの最初に新型コロナウィルスに触れて、論じていることです。

 普通に考えればNHKは
新型コロナウィルスは憲法改正問題と、直接・間接に何の関係もないとして世論調査の実施に当たったものと考えられます。それならば調査結果の分析に当たっても、その前提は維持される必要があります。NHKは何故このような二人の新型コロナ中心のコメントを受け入れたのでしょうか。
 それはNHKにとって、
改正支持32%、「日本を取りまく安全保障環境の変化に対応するため必要だから」が50%と言う結果が、受け入れがたいものだったからだと思います。

 そこでNHKは世論調査の質問・回答には全く含まれていなかったにも関わらず、
安全保障環境の変化を背景とした改憲支持の増加と、新型コロナウィルス強引に結びつけ、改憲支持の増加は新型コロナウィルス対策の強化を求める声を反映したものであると、世論調査結果の歪曲に走ったのです。
 この二人の専門家の
「改憲と新型コロナを結びつけた解説」は、NHKの意を受けてのものである可能性があります。

 NHKは 世論調査の都度、「コンピューターで
無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかけるRDDという方法」の説明をするのが常ですが、必要なのはそれだけでなく、「専門家」をどういう基準で選んでいるかも併せて説明し、選定に偏りがないことを証明すべきだと思います。

 新型コロナ問題とは別に石川健治教授は、「・・・法律で緊急事態に対応することと、憲法に『緊急事態条項』を設けることは、話の
が別なので切り分けて考える必要がある。『緊急事態条項』によって、議会をとばして内閣が勝手に決められる仕掛けを用意することは、対応のしかたとして危険だ。緊急事態には法律で対応すべきで、憲法改正論に結び付けるのはが違う」と述べていますが、世論調査の回答者が、新型コロナ対応のための緊急事態条項を認識して回答した形跡が窺えない中で、このような議論をここで展開するのはまるで見当違いです。
 それに
憲法が改正されれば、当然それに伴って法律制度も改定されるはずですので、「法律で対応する」と言う基本に変わりはありません。

 石川教授はいやに
「筋」にこだわっていますが、筋とは何でしょう。国民共通の認識があるのでしょうか。それは明確で、国民すべてが拘束されるものなのでしょうか。
 憲法論議に於いて、
「緊急事態」と「憲法改正論」を結びつけてはならないという決まりがあるのでしょうか。それは単に石川教授の考えには合わないと言うだけの話ではないでしょうか。もし、そうであれば、その主張が国民の理解を得られるように主張すべきであって、それをすることなく、「筋違い」と切り捨てるのは、賢明な学者のする事ではありません。
 それらが何もない中で、一人で
「筋、筋」と連呼するのは奇異を通り越して、異常です。学者の議論ではありません。

 また、石川健治教授の「
今は憲法を変えるべきでない」と言うのも、理解に苦しみます。安倍総理始め、憲法改正を主張する人達は、10年20年前どころか、戦後一貫して9条を初めとする憲法の改正を主張してきました。石川教授の「今は・・・」と言う台詞を聞くと、この人は今回の新型コロナウィルス感染問題が起きる前は、改憲支持だったのでしょうか。それなら理解できますが、そうでないとすると「今は」というのは、「いつからいつまでを指す」のでしょうか。
 そういう言い方をする人は、今後
いつになったら改憲に賛成するのかを明言すべきです。

令和2年5月3日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ