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NHKの経営計画、重視すべきは「NHK職員の創造性発揮」ではなく、「受信料負担者の満足度」である −NHKは誰のものかを明確にすべき−

 8月4日のNHKテレビニュースは、「NHK 来年度から3か年の
経営計画案まとまる」と言うタイトルで、次の様に報じていました。
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NHK 来年度から3か年の経営計画案まとまる
2020年8月4日 18時56分 NHK



 NHKは、来年度から3か年の経営計画案をまとめました。「新しい『
NHKらしさの追求』」を掲げ、コスト構造の改革を徹底して「スリムで強靱なNHK」となり、多様で質の高い充実したコンテンツを合理的なコストで提供して、受信料の価値の最大化を図るとしています。

 NHKは、4日行われた経営委員会で、来年度・令和3年度から
3か年の経営計画案をまとめました。

 この案では、世帯数の減少や視聴環境の変化などを踏まえ、これからの時代に対応した「新しい
『NHKらしさの追求』」を基本的な考え方に掲げています。

 「視聴者・国民の安全・安心を支える」など、5つの分野に重点的に投資を行うとともに、業務の見直しなどのコスト構造の改革を徹底して
大幅な支出削減を行い、事業支出を令和4年度までに6000億円台の規模に抑えて、「スリムで強靱なNHK」にするとしています。

衛星波・
BSは、整理・削減を段階的に実施します。

 BS1・BSプレミアム・BS4Kの
3波は2波に整理し、具体的な実施時期は来年1月に明らかにするとしています。

 そのうえで、将来的には、
1波化に向けて検討を進めるとしています。

 音声波・ラジオは、さらなるインターネットの活用を前提に、
AM・FMの2波への整理・削減に向けた検討を進めるとしています。

 そして、多様で質の高い
「NHKらしい」充実したコンテンツを、より最適な媒体を通じて合理的なコストで提供し、受信料の価値の最大化を図るとしています。



 
前田会長は、記者会見で、「改革をさらにスピードアップし、NHKを本気で変えるという覚悟を示している。世帯数の減少などによる受信料収入の減収局面や、多様な動画配信サービスの登場による視聴・利用環境の変化、技術革新の加速など、NHKを取り巻く環境は激しい変化を続けている。こうした変化を踏まえて、次の3か年でNHKが行うべきことは、新しい『NHKらしさの追求』だと考えた。コスト構造改革を徹底して、職員一人ひとりの創造性を最大限に生かせる『スリムで強靱なNHK』に生まれ変わらせたい」と述べました。

 NHKは、この案に対する意見募集を5日から来月3日まで実施し、寄せられた意見なども踏まえて、来年1月までに3か年の経営計画を取りまとめることにしています。
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 この
経営計画案が言っていることの問題点のポイントは、「NHKらしさの追求」と、「受信料の価値の最大化」の2点だと思います。

NHKらしさの追求」
 「NHKらしさの追求」と言っていますが、NHK“らしさ”とは何か、明確なのでしょうか。
視聴者は皆“NHKらしさ”を感じて(認識して)それを肯定し、その維持・発展を求めているのでしょうか。

 それは単に「
民放(以前、NHKは“商放”と呼んでいた)」を意識し、民放とは違うんだというだけの、NHK職員の根拠のない歪んだ「特別(特権)意識」の発現ではないのでしょうか。

 このあたりの発想は、以前の
「まっすぐ、真剣。NHK」のキャッチフレーズを彷彿とさせ、改めてNHKの旧態依然たる過剰な自意識を感じさせます。確かに民放の番組には低俗・下品なものが見受けられ、その点ではNHKらしさは評価できる部分もありますが、反面で上記のキャッチフレーズのごとき、鼻持ちならない自画自賛・唯我独尊の悪臭には嫌悪感を禁じ得ません。

NHKは誰の物か
 
NHKらしさとは何か、NHKはどうあるべかを考えるなら、そもそも、NHKは誰のものかを考える必要があります。@.のものか A.職員のものか、B.視聴者のものか、C.全受信料負担者(視聴しないものを含む)のものか、と言う事を改めて考える必要があると思います。

 この点について、番組制作費を初めとするNHKの
運営費用が、ほぼすべて受信料によって賄われていることを考えると、NHKは「全受信料負担者」のものであると考えるべきであり、少なくとも雇用されている職員のものでないことは明らかであると思います。NHKはこの事を肝に銘じて業務に当たるべきです。

 しかるに現状のNHKは、極論すれば
視聴者無視、自画自賛・唯我独尊の組織である言っても過言ではないと思います。彼らはそれを「外部(政治)」からの「自立・独立」に話をすり替えて正当化しようとしていますが、視聴者からの自立・独立は認められず、職員には何の権限もありません。
 
権利と義務は表裏一体のものであるという原則に照らしてみても、義務(受信料負担)だけあって番組に対して何の権限もない視聴者と、権限(自主・独立)だけあって何の義務もない職員達、この両者が併存する制度は、平等と民主主義の現代に於いてあり得ない制度です。

 視聴者無視の例としては次の様なものがあります。
 NHKは本来であれば、
商品の売り上げに相当する、番組ごとの視聴率を把握し、公表すべきであるにも拘わらずしていません。特に他の一般業界と異なり、受信料を強制的に徴収し続ける以上は、受信料を負担しているすべての人がNHKの番組を“受信料の負担に見合う程度に”受信していることは必ず確認し、これを必達目標とすべきです。そうでないと、NHKの番組を全く見ていない人から受信料を徴収していることになり、許される事ではありません。もし、それに不満であれば契約の強制を止めるべきです。

 また、NHKは視聴者からの意見・要望・苦情の受け付け窓口は設置していますが、窓口を設置しているだけで、それを生かす体制がありません。もし、それらを生かそうという気があるならば、受け付けた意見・要望・苦情の中で多数寄せられたものについては、公表してNHKの見解を表明するなど反映に向けた努力をすべきですが、全く行われていません。

 私は以前、何年も前ですが、NHKに対して苦情・要望を申し入れたことがあります。内容は、「ニュース番組で、
全国のニュースの後に、関東・関西などの各地の放送局ごとのローカルニュースが、該当地域の受信者だけを対象に報じられるが、自分が住んでいる地域の出来事が全国のニュースで報じられると、全く同じ事(映像も音声も)が重複してローカルニュースで報じられている。無駄なことは止めるべきだ」と言うものでした。それに対して、受け付けた人は反論することなく、「そうですね」とは言ったものの、「改善します」とは言いませんでした。そして、それは改善されることなく、現在もそのまま続いています。

 要するにNHKは一応「意見・要望・苦情」の
窓口は設置しているものの、誠実な対応をする用意は無く、聞く耳は持たず、単なる苦情“処理”係に過ぎません。ゴミ“処理”と同じレベルです。

受信料の価値の最大化
 これは奇妙な言い方です。放送局が番組一つずつに価格(受信料)を付けていればわかりやすいのですが、残念ながら、1か月放映分にまとめて一つの価格(受信料)が付けられているので、単純にはいきませんが、消費者(視聴者)がNHKに求めるのは、
決められた価格(受信料)の価値の最大化ではなく、より良い商品(番組)をより安い価格(受信料)で提供すると言う事になると思います。
 それに対して「
受信料の価値の最大化」という言い方は、最初にまず自分たちの都合に合わせて価格(受信料)を決定・徴収し、その収入額の範囲内で商品を作ると言う価格優先(業者優先)の発想であり、本末転倒で非常識です。「最大化」と言う言い方は消費者を誤解させる表現です。

受信契約強制の廃止
 前田会長は、「改革をさらにスピードアップし、
NHKを本気で変えるという覚悟を示している」と言っていますが、本当でしょうか。
 本気で変える気があるのなら、
受信契約の強制(受信料の強制徴収)の廃止にまで踏み込むべきです。
 
NHKが発足した当時では、民放は存在せず、放送受信機器を購入設置したものはイコールNHKの放送受信者と判断出来ますから、強制徴収には合理性がありましたが、その後民放が誕生してNHKを受信しないという選択肢が出来、さらにデジタル放送化と、「スクランブル」という技術の開発により、NHKの受信契約をしない者の受信を止める事が可能になった以上、すべての放送受信機器所有者にNHKとの受信契約の強制は、根拠・合理性を喪失したものと考えるべきです。
 これが
「NHKを本気で変える」第一歩です。営業努力と無関係に受信料収入が増加し、NHKの肥大化が進むという悪夢の一掃が不可欠です。

 更に会長は、
「職員一人ひとりの創造性を最大限に生かせる・・・」と言っていますが、NHKが改革を目指すのなら、「職員一人ひとりの創造性を最大限に生かす」ことではなく、「すべての受信料負担者満足度を最大化する」ことを目標とすべきです。

令和2年8月10日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ