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則定検事長の辞任と世論

 4月25日の産経新聞朝刊に「則定検事長のスキャンダル辞任、若手キャリアはどう見た」という見出しの記事があり、則定検事長のスキャンダルと、その後の辞任についての、各省庁の若手官僚の意見が報じられていました。「『女性問題だけならやめなくても』といった、同情的な声があがる一方で、『特定業者との癒着の事実が本当はあったのではないか』、『第三者による透明な調査を』といった声も聞かれる」など、さまざまな意見が書かれていました。

 ところで産経新聞はこの問題に関する、国民の世論調査をしたのでしょうか。事件が報道された直後に、タイムリーに世論調査をし、その結果を報じていたならともかく、それをしないで今頃、同じ高級官僚の仲間の意見を報じることに意味があるのでしょうか。重要なのは国民がどう考えているかであって、若手キャリアがどう見たかなどは、どうでもいいことだと思います。

 ここで思い出されるのは、アメリカのクリントン大統領の不倫問題と、国民世論です。アメリカのメディアが頻繁に世論調査をし、報道していたのは、一般国民がどう考えているかであって、アメリカの連邦政府のキャリアの官僚達がどう考えているか、などという報道はありませんでした。そして、世論調査の結果はクリントン大統領は辞任する必要がないというのが、つねに多数意見でした。その結果、議会は弾劾を断念せざるを得なくなりました。

 新聞の重要な使命の一つは、国民の多数意見明らかにし、それを報じることだと思います。産経新聞がそれをせずにこのような調査をし、記事を書くのはなぜでしょう。それは、日本の新聞記者が記者クラブでの接触を通じて、心理的に読者よりも取材対象の官僚の近くにいて、読者の意見よりも官僚の意見を重視しているからだと思います。この問題に限らず、日本の新聞にはどういう基準で選んだか明確でない、「識者」の意見が紙面を埋めていて、読者の多数意見を報道しようと言う姿勢が見られません。民主政治に対する認識が欠けていると思います。日本の政治において国民の多数意見が反映しない原因の一つはここにあると思います。

 なお、一連の報道について、堀口勝正次長検事は「朝日新聞の謀略だ」といったそうですが、これについての詳しい報道もありません。いつも出版社系の雑誌を軽視し、橋本首相の中国人女性をめぐる疑惑など、雑誌のスクープをことさら無視しようとする傾向が顕著な朝日新聞が、「噂の真相」などというマイナーな雑誌の言うことを、なぜ、いきなりトップ記事にしたのでしょうか。疑問が残る報道です。

平成11年4月28日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ