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「共同親権」法案提出から可決成立まで2か月余り、民意は反映したか。 -いつも“成立してから問題点を指摘”する読賣新聞-
5月17日の読賣新聞は、「[スキャナー]父母双方に 養育の責任 離婚後親権 合意必要な場面「曖昧」」と言う見出しで、次の様に報じていました。(茶色字は記事、黒字は安藤の意見)
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[スキャナー]父母双方に 養育の責任 離婚後親権 合意必要な場面「曖昧」
2024/05/17 05:00 読売
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「共同親権」導入を柱とした、民法などの改正案が賛成多数で可決された
参院法務委員会(16日午後、国会で)
離婚後の親権を父母のどちらか一方に限る「単独親権」を見直し、双方が親権を持つ「共同親権」も選べるようにする制度の導入が16日に事実上決まった。別れても親として子育てに責任を持ち、協力し合う枠組みが整うが、具体的な子育ての場面で双方の親がどう関わるか線引きが曖昧な面もあり、施行に向けて詰めるべき課題も多い。(社会部 石浜友理、杉本和真、本文記事1面)
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「線引きが曖昧」、「詰めるべき課題も多い」は、許される事でしょうか。何を今頃になってそんな報道をしているのかと言わざるを得ません。
問題が残っているのなら、成立前にそれを把握して読者に伝えるのがマスコミの役割です。それにもかかわらず今回の成立後の報道に至ったのは、他意(読者・有権者の意見が法律に反映して、民主主義が有効に機能することを阻止する)が有って隠蔽していたとしか考えられません。“官”にしてもそのような重要事項を保留にして法律を成立させ、“詳細は施行の日までに政令で定める”などと言う、立法府を軽んじる行為は許せません。悪質極まります。
新聞記事が改正案成立後に問題点を指摘するのは、上記の他に自分たちが後日の批判から免れるための“アリバイ造り”の為の情報操作と言う一面も否定出来ません。正に「マスコミは民主政治の障害物」そのものです。
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■9割が母親
国の人口動態統計によると、2022年は17万9099組の夫婦が離婚し、このうち9万4565組に未成年の子どもがいた。同年に親の離婚を経験した子どもは16万1902人に上る。
これまでは、離婚時に父母のどちらが親権を持つかが大きな問題になってきた。親権は、未成年の子どもの身の回りの世話や教育、財産管理に関して親が持つ権利と義務だ。現在の民法は婚姻中は共同親権、離婚後は単独親権と定め、母親が親権を持つケースが9割近くを占める。この仕組みでは、離婚後に親権のない親が子どもと会えずに子育てに関わりにくかったり、養育費の不払いを招いたりするとの指摘があった。
海外では欧米を中心に共同親権が主流で「本人たちが共同親権を望んでも、その選択肢がないのはおかしい」といった声も出ていた。
「指摘があった」、「声も出ていた」と言う批判的な意見が、多数なのか少数なのか、それが問題です。多数と明記していないところを見ると「少数」だった疑いがあります。理由も無く(明らかにせず)少数意見だけを報じるのは情報操作です。
マスコミは法律改正成立前に様々な多数意見・少数意見を報じるべきで、成立後に報じるのでは遅すぎます。そんな事は当然の事で分かっているはずです。
欧米と日本では異なることは他にもいくらでもあり、欧米が世界の中心だったのは過去になりつつあります。欧米の声よりも、まず国内の様々な意見を報じるべきです。
(中略)
離婚後の父母による子育てを支援する一般社団法人「りむすび」(東京)代表のしばはし聡子さん(50)は「『離婚したらひとり親になる』という社会の固定観念が 払拭ふっしょく され、別れても2人で子育てするという意識が社会に浸透するきっかけになる」と意義を強調する。
常識的に考えれば、社会の固定観念≓常識(多数意見)であり、それを払拭(否定)する意見(意識)が社会に浸透していくのは、必ずしも健全な民主主義社会の姿ではありません。「別れても二人で子育てする」と言う考え方が、多数の支持を得て拡散してきたものかどうかと言うことが重要です。
民法改正の経緯は今回に限らず(過去の18歳成人の時も)、そのほとんどがいかなる意味でも「国民の代表」とは言えない「官僚、有識者」が先導し、それをマスコミが問題点に目をつぶり無批判に報じてきてフォローされたものです。
特に「議員立法」ではない、“官”立法は、法案作成の時から、民意を反映する十分な機会が必要です。しかるに彼らの法案は 非公開の審議会での官僚と官僚が指名した有識者の発言、多数意見と少数意見など議論の詳細が明らかにされないまま、無理やり1本化された「法案」として提出され、民意が反映する機会はほとんどありません。
しかし官達の作る法案はあくまで提案であり、無理に一本化する必要は全く無く、両論併記、少数意見併記でも一向に差し支えないはずです。無理やり“法案”として1本化する必要は無く、むしろ有害です。
こうして彼らの1本化された法案をたたき台として、その可否を審議する国会で成立した法律は、民意を反映する機会が少なく、そのような法律が国民に「浸透」してゆく社会は、健全な民主主義社会の姿ではありません。“18歳成人”がその良い例です。
(中略)
政府は26年度とみられる施行までに「急迫の事情」などを明確化する方針だが、現状では特に医療界で不安の声が強い。医療現場では、患者が子どもの場合、入院や手術の場面で親権者の同意をとる。しかし、どの程度の緊急性があれば「急迫の事情」として一方の同意で足りるのかなど、基準が明らかではない。共同親権だと、離れて暮らす親に連絡して同意をとるといった負担も生じうる。
日本産科婦人科学会理事長の加藤聖子・九大教授は「一方の親から同意を得て緊急の医療行為を行った場合に、同意をとらなかった他方の親から医療者が訴えられるリスクもある」と指摘。学会として、日常・急迫に該当する医療行為の範囲などに関するガイドライン(指針)の策定を検討しており、「子どもの命を守るための医療行為を安心して行えるよう、小児科医や法律家とも連携して策定を進めたい」と話す。
これからの策定はなぜか「小児科医と法律家」と連携であって民意は全く視野にありません。
家裁の負担増必至 DV認定判断迷うケースも
国会審議では、家裁が単独親権とすべきDVを適切に見極められるかどうかが、焦点の一つとなった。
DVには身体的なもののほか、暴言などの精神的DV、生活費を渡さないなどの経済的DVも含む。DV被害者や支援団体は「家裁が被害を認定せず、共同親権を強いる恐れがある」などと改正案に強く反対した。
このような重要事項に関して、強い(多数?の)反対を放置して、26年までに官が独断で決定すると言うのは、受け入れがたい、立法権の侵害です。
「単独」か、「共同」かの議論の争点(論点)は、「経済的な事情」と、「協力の可否(可能性・意志)」と見られますが、「経済的な事情」は客観的な判断が可能ですが、「“共同(協力)”の可否」は当事者の意向がほとんどで、またそれが優先されるべきで、司法が判断する(判断出来る)ことではありません。
「共同」の定義・範囲が明確でなければ、当事者以外がその適否を判断する事は出来ないし、敢えてすればそれは司法の越権行為(人権侵害)になりかねません。
元家裁調査官で、公益社団法人「家庭問題情報センター」(東京)事務局次長の下坂節男さん(73)は「密室で起こるDVでは証拠となる録音やメモがない場合が多く、『自分が悪い』と思い込み、自身が被害者という認識が持てない人もいる。加害者側もDVの自覚がない場合が多い」と指摘。親権者を決めるための家裁の審判などでは、双方の主張を聞き、必要に応じて家裁調査官が自宅訪問などをして実態を調べるが、DVを巡って判断に迷うケースが生じる可能性もある。
改正案は父母の意見が対立した場合、最終判断の多くを家裁に委ねる仕組みで、家裁の体制整備が不可欠だ。
最高裁によると、養育費請求など子の監護に関する審判・調停の申し立ては22年が4万4163件で、10年前から1割ほど増加。1件当たりの平均審理期間も8・5か月と、10年前より3・3か月延びた。
施行後は家裁の取り扱う案件がさらに増えるのは必至で、衆参の法務委員会では、裁判官や家裁調査官の増員など体制拡充を求める付帯決議が採択された。
今回の改定に当たって、家裁の判事を増員と言っているが、少子化・人口減少の中で、「仕事が増えるから増員が必要だ」は、もはや通用しないという事が分かっていないのでしょうか。そんな事を各官庁が繰り返していれば、公務員の増員→人手不足→外国人依存、が拡大するだけで、その行き着く先は“日本の破綻”である。
「司法(公務員)の甘さ」、自分達のことしか考えない狭量さには開いた口が塞がらない。
そもそも「証拠がなく、加害者に加害者の自覚がない、あるいは被害者に被害者の認識が無い等の事態が“DV”と認識される中には「司法」に問題があるケースが少なくないと考えるべきです。それは司法の“捏造”と言うべき事態ではないのでしょうか。
「婚姻は両性の合意によってのみ成立する」が大原則です。離婚後の親権の行使についての争いに、司法が関与するならば、既婚者の親権の行使についても親権者間で不一致・争いがあれば、司法が関与するのかと言う事になりかねません。
離婚後も既婚者に準じるべき事と、当事者双方の合意に依るべき事を念頭に置き、官の口出し範囲が拡大するのは好ましい方向ではないことを確認して「増員」は控えるべきです。
離婚の後始末などは、後ろ向きの仕事で何のプラスにもなりません。その為に公務員を増やすことよりも、離婚がなぜ増えるのか、増やさないためには(減らすには)どうしたら良いかを真剣に考えるべきです。社会の劣化の原因を突き止め、劣化に歯止めを掛けるべきです。
仕事が増える(変わる)度に「増員」していては、判事が何人いても足りません。「パーキンソンの法則」は克服しなければなりません。
あるベテラン裁判官は「審理が長期化し、立場が不安定な状況が続いた子供が精神的に参ってしまう事態は避けなければならない」と指摘。裁判所内では、民事担当の裁判官を家事担当に振り分けたり、ウェブ会議を活用して審理を迅速化したりする対策が検討されているという。
これだけ多くの問題点があるにも拘わらず、法律が成立してから読者に報道するとは、読売は一体何を考えて居るのだろうか。これらの問題は当然法案可決成立以前に浮き上がっていたことであり、成立以前に読者・国民に伝えなければならないことは明白です。
“官”と“マス”の癒着が民主政治の障害物であり、この両者と有識者を加えた三者が癒着して日本を蝕んでいるのです。
このような事態は今回が初めてではありません。18歳成人問題を始めとする、法務省所管の“民法改正”は、総てがこのような経過をたどっています。
令和6年5月25日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ