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新聞の名に値いしない朝日新聞

 6月22日の朝日新聞に戦争で負傷した在日韓国人の元軍属が、日本政府を相手取り、戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく障害年金の支給を求めている裁判のニュースが報じられました。

 「国側が和解を拒否」という見出しがあり、記事の中で、原告が負傷した状況や裁判での請求の趣旨、提訴に至った経緯、原告の怒りの言葉が報じられていますが、国が年金の支給を拒んでいる理由については全く触れていません。「和解には乗れず、検討の余地もない」とか、「行政訴訟であり、和解による解決にはなじまない。(援護法に基づく障害年金の請求を却下した)処分の適法性を問われているのだから、譲歩の余地はない」という部分の国側の主張だけが報じられています。これでは読者は国がなぜ支給を拒んでいるのかという肝心なことが何も分かりません。支給の必要性は争わずに、手続き的な問題でのみ、争っているという印象を受けます。

 国の主張は、「韓国人の請求権問題は、1965年に日韓両国によって結ばれた、『財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定』で、日本が無償3億ドル、有償2億ドルを支払うことにより、すべて解決済み」という主張であるはずです。事実、協定締結交渉における韓国政府の「対日請求権要綱」の第5項には、協定の請求権の中に、「戦争による被徴用の被害に対する補償、韓国人の対日本政府請求恩給関係その他」が含まれることが明記されています。この、日本政府の主張を報じない報道は重要な事実を隠していることになります。裁判のニュースを報じるに当たって、原告の主張のみを報じ、被告の主張を報じないのは報道とは呼べず、そのような新聞は新聞の名に値しません。

 もし、この原告の主張が認められたら、在日だけでなく韓国に住んでいる、元軍人、軍属からの請求にも応じなければならないと言うことになりかねません。それなら、日韓協定による支払いはいったい何だったのでしょうか。韓国政府は全韓国人を代表して受け取ったはずです。原告らの元軍人、軍属に対して補償金、年金の支払いをしないのは韓国政府の怠慢、差別と言うべきです。

(参照 韓国人元日本兵の補償裁判)

平成11年6月26日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ