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塩野義製薬訴訟、新聞が報じない「会社側の主張」

 塩野義製薬に勤めていた元女性社員が、「男性社員と同じ仕事をしたのに、女性だというだけで昇級が遅れ、賃金格差ができた」として、会社を相手に賃金の差額など4,670万円の損害賠償を求めていた裁判で、原告が勝訴し裁判所が同社に3,000万円の支払いを命じたニュースが7月28日の各紙夕刊に報じられました。

 読売新聞、産経新聞を見ると、原告の主張、裁判所の判断は詳しく報じられていますが、被告会社の主張は全く報道されず、一方的な報道になっています。記事の最後に申し訳程度に、「塩野義製薬総務部の話『当社の主張が認められず残念だ。判決文を検討した上で今後の対応を考える』」と書かれているだけです。これでは読者は何が争われたのか分かりません。原告の主張が正しいのか、被告の主張が正しいのか、裁判所の判断に誤りはないのか、判断することができません。新聞は主権者である読者、国民が自由に判断するために必要な情報を提供するのが使命のはずです。原告の主張のみを報じ、被告の主張を報じないのは、偏向報道であり、新聞の使命に反します。このような偏向報道のもとでは正しい世論が形成されることは期待できません。新聞社は主権者は読者、国民であり、何が正しく、何が正しくないのかを判断し、決定するのは読者、国民であって、新聞社ではないと言うことが分かっていないと思います。

 読売、産経に対して朝日新聞は、「裁判で塩野義製薬側は、他の男性社員が技術職として採用されたのに対し、中さん(原告)が採用時、技術補助職であったこと、転勤もなかったことなどをあげ、給与格差や昇級の遅れは中さんの勤務態度や協調性などに問題があって、役付きへの昇格も遅かったためだ、と説明。『中さんは男性社員とある時期、偶然同じ仕事をしていただけ。賃金の格差を性差別に結びつけるのは誤りだ』と主張していた」と簡単に被告の主張を紹介しています。何も報じない読売、産経よりはましですが、中さんのどういう点に問題があったのか、「ある時期」以外はどういう仕事だったのかについて会社の主張を報じておらず、読者がどちらの主張が正しいか判断するには不十分です。

平成11年7月29日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ