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読売新聞の誘導質問

 10月14日の読売新聞朝刊に、新聞週間にちなんだ世論調査の結果が発表されました。
全部で14ある質問項目の最後の2問で、「再販価格維持制度」と「新聞の宅配」の問題について次のような質問をしています。

 「新聞の値段はそれぞれの新聞社が決めており、同じ新聞なら、全国どこでも基本的に同じ値段で購読できます。あなたは、この再販価格維持制度を、今のまま続ける方がよいと思いますか。変える方がよいと思いますか。」
続ける方がよい     78.2%
変える方がよい     15.9%

 「日本では、全国紙や地方紙などの一般の新聞の99%が、毎日一定の時間帯に読者に直接配達されています。あなたはこの宅配制度を、今のまま続ける方がよいと思いますか。なくなっても構わないと思いますか。
続ける方がよい     94.1%
なくなっても構わない   4.8%

 どちらの質問も肯定的な回答の選択肢は、「続ける方がよい」なのに、否定的な回答の選択肢は、再販については「変える方がよい」で、宅配については、「なくなっても構わない」となっているのはなぜなのでしょうか。宅配について、「なくなっても構わない」の代わりに「変えた方がよい」という選択肢にしたら、否定的な回答はもう少し少なくなると思います。また、再販について「変えた方がよい」の代わりに「なくなっても構わない」という選択肢にしたら、否定的な回答はもっと増えると思います。

 再販について、「この再販売価格維持制度を、今のまま・・・」と言っていますが、「この」の一言で言っているのは、「新聞の値段はそれぞれの新聞社が決めており、同じ新聞なら、全国どこでも基本的に同じ値段で購読できます」と言う部分です。これは、再販制度の一面を自分の都合のよいようにコメントしただけのもので、公平なコメントではありません。独占禁止法で再販制度が禁止されているのは、再販制度のもとでは価格競争原理が働かず高値に安定するなど消費者に不利益をもたらすからであり、その点に全くふれずに、「この再販売価格維持制度・・・」というのはごまかしであり、読者を欺き、愚弄するものです。このような公平でないコメント付きの質問は誘導尋問と同じです。読売新聞社は、独禁法の問題について世論調査をするときに、「・・・テレビの小売り値段はメーカーが決めており、同じメーカーの同じ型のテレビなら全国どこでも同じ値段で買うことができます」というコメント付きで、読者に質問するのでしょうか。決してそんなことはしないと思います。

 それに、全国どこでも同じ値段で買えることはそんなにいいことでしょうか。それなら独占禁止法を改正して、全商品再販指定にした方がいいことになります。テレビは秋葉原で買っても、田舎の電器屋で買っても値段が同じであることは望ましいとは思いません。コメの値段も水道の料金も全国一律ではないのに、新聞の値段だけが全国一律でなければならない、または一律であった方がいいという理由がありません。

 宅配に関しても同様です。「この宅配・・・」と言っていますが、「この」が指しているのは、「毎日一定の時間帯に読者に直接配達されています」と言う部分だけです。現在の宅配制度のデメリットには何も触れていません。宅配のもとでは消費者は店頭販売と違って、商品(新聞)を店頭で見比べて選んで買うことができないという大きなデメリットがあります。配達料がただではないことはもちろんです。デメリットには一切触れず、この「毎日一定の時間帯に読者に直接配達されています」と言う点だけに限って、「よい」か「悪い」かを質問すれば「悪い」と答える人はほとんどいないのは当り前です。メリットと、デメリットを提示して質問するのでなければ質問する意味がありません。

 読売新聞社は世論調査に当たっては、いつもデメリットには触れないで回答を求めているのでしょうか。そんなことはありません。今回の世論調査でも、11番目の質問ではインターネットに関して次のような質問をしています。

 「インターネットが急速に普及し、誰でも手軽に最新の情報に接したり、世界中の人と情報を交換できるようになった反面、犯罪に使われたり、個人情報が盗まれると言った問題も起きています。あなたはインターネットが普及することによって社会や個人の生活より豊かになると思いますか。そうは思いませんか」
そう思う                   16.0%
どちらかと言えばそう思う        30.2%
どちらかと言えばそうは思わない    20.0%
そうは思わない              24.7%


 この質問ではメリットとデメリットを提示して回答を求めています。そのためか賛否が拮抗しています。読売新聞社がこの問題に関してのみ、デメリットを提示したのはなぜでしょう。それはインターネットを競争相手、潜在的な脅威と見ていて、批判的な結果を出したかったからだと思います。 そして、「再販」と「宅配」の問題では批判的な結果を出したくなかったのだと思います。

平成11年10月16日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ