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天皇陛下記者会見の政治利用

 11月12日の各紙に天皇陛下の即位10周年の記者会見の内容が報じられました。朝日新聞を見ると、「戦争の惨禍、語り継ぐのが大切」、「原爆被害 世界に理解してほしい」という見出しで報じられています。記事を読むと陛下は質問に答えて、廬溝橋事件、沖縄地上戦闘、沖縄の祖国復帰、原子爆弾の被害等について発言されています。陛下はなぜこのような政治的発言をされたのか疑問に思います。

 この記者会見は、質問とそれに対する回答という形式がとられています。この政治的なお言葉を引き出した質問は、「戦後54年が経過し、かつて激戦地となった沖縄で来年サミットが開かれます。天皇陛下は戦後、長く沖縄の現状について心を配られてきました。また、外国訪問の際にも戦争の傷跡について深くお考えになったと思われます。内外の戦争の惨禍を次の世代に伝える上で、現在どのようなお気持でいらっしゃいますか」と言うものです。

 質問者は、「天皇陛下は・・・心を配られてきました」、「・・・深くお考えになったと思われます」と、勝手に決めつけて質問しています。そして、戦争の惨禍を次の世代に伝える(反戦平和主義を守る)ことが必要かつ重要であると言うことを無言のうちに前提とし、質問者の考えを陛下に押し付けています。

 「戦争の惨禍を次の世代に伝える」ことは必要なことではありますが、「惨禍」は戦争の一面であって戦争のすべてではありません。我々が戦争に関して次世代に伝えるべきは「惨禍」だけではないはずです。「戦争」を「惨禍」と「傷跡」という視点からのみ見る見方は偏った見方であると思います。しかし、天皇陛下は戦争についてそれ以外の側面について語ることはできないお立場にあります。そのようなことを語ることは政治的な発言そのものになってしまうからです。そうであることを承知で天皇陛下に「惨禍」と「傷跡」についてのみ語らせるのは、天皇陛下に戦争について偏った考えを話させるという結果になると思います。

 それに、戦後54年経っている今、終戦記念日でもない、ご即位10周年の記者会見で、なぜ「戦争の惨禍」と言う質問なのでしょうか。そう言う質問をするくらいなら、「教育の荒廃について」、「少年犯罪について」、「日の丸、君が代」についての質問はなぜないのでしょうか。「平和」とか「原爆」はいずれも政治にかかわることで、陛下にこのような質問をし、質問者の前提に基づいた回答を迫るのは天皇陛下の政治利用になると思います。

 この質問以外にも、「両陛下は皇太子・皇太子妃時代から、障害者や高齢者などの福祉問題に強い関心を寄せられてきました。また、ご即位後も福祉施設の訪問に加えて、被災地のお見舞いや復興に心を配られてきました。こうした10年間の活動をどうお考えになり、また、今後の両陛下の果たすべき役割をどうお考えになりますか」と質問していますが、天皇陛下の役割は福祉と災害復興に役立つことだけではないと思います。日本国の、日本国民の精神的支柱として、他にもっと大事なことがあると思います。

 これらの質問はこの記者会見にふさわしくなかったと思います。このような質問をしたのは記者個人なのか、新聞社あるいは記者クラブなのか、質問者の氏名、所属を明らかにした上で批判の対象にすべきであると思います。そして、宮内庁は天皇陛下に対する記者会見が望ましいかどうかを含めて、記者会見のあり方を再考すべきだと思います。

平成11年11月14日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ