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八百長相撲を知っていて報じなかった日本の新聞

 「週刊ポスト」、「週刊現代」両誌に、大相撲の元力士板井氏の八百長告発記事が連載されています。記事を読むと、板井氏は外国特派員協会で、自らの経験を含めて大相撲に蔓延している八百長を厳しく告発しています。「1日30番ある取り組みの中で真剣勝負は5〜6番。日によっては3番ぐらいしかない日もありました。あとは全部八百長でした」(週刊ポスト2月11日号)と言っています。

 1月21日以来、何度か板井氏の発言を報じている毎日新聞を見ると、「板井さんは曙、千代大海ら18人の現役力士の実名を挙げて『現在も八百長が行われている。相撲経験者なら誰でも分かる。協会の親方衆も100%知っている。ただ言えないだけだ』と話した」とか、「大相撲の『八百長』をめぐっては、96年に週刊誌上で『八百長報道』した小学館などを相撲協会が名誉棄損で東京地検に刑事告訴。同地検が嫌疑不十分で不起訴にしている」などと、板井氏の発言を八百長批判の観点からのみ報じていますが、板井氏の発言の中にはもっと重大な指摘が含まれています。それは、日本の新聞記者は八百長を知っていて、これを報じなかったと言っている点です。彼は、「日本の新聞記者は八百長のことを知っているのですが、書けないのです。伝統的な癒着です。ここにいる記者は全員知っているはずです。NHKだって皆知っていますが、誰も口にしないのです」(週刊ポスト2月11日号)と言っています。

 もし板井氏の言っていることが嘘であるならば、会見に居合わせた新聞記者、新聞業界は業界の名誉、信頼にかけても、板井氏を名誉毀損で告訴すべき事態だと思いますが、未だにその気配がありません。いや、板井氏の指摘自体を全く報じていません。相撲協会の抗議もおざなりの感を拭えず、厳重抗議とはほど遠い状況です。

 相撲がすべて真剣勝負で行われているなら、一場所15日間闘った結果の勝敗は、7勝8敗の負け越しの力士と、8勝7敗の勝ち越しの力士の数は本来ほぼ同数となるはずですが、平成10年一年間の本場所の星取り表を分析すると次のようになります。

        8勝7敗     7勝8敗
初場所      5人       4人
春場所     12人       2人
夏場所     11人       5人
名古屋場所    7人       6人
秋場所     12人       3人
九州場所    11人       3人
合  計    58人      23人

 この数字を見れば、八百長が行われていることは明らかです。大規模な八百長に全く気づかずにいたというのなら、そのような感度の鈍い記者は失格です。知っていて報じなかったのならそれは犯罪行為と言っていいと思います。

 日本の新聞はなぜこのような犯罪行為をするのでしょうか。それは板井氏も言っているように日本の新聞が取材対象と「癒着」しているからです。各界、各地の記者クラブが「癒着」の温床であるとの指摘は以前より言われていることです。大蔵省で接待汚職がはびこったのは、大蔵官僚と癒着している記者クラブの記者達が実態を報じなかったからです。

 スポーツの世界では「癒着」を通り越して文字通り一体になってしまっています。読売新聞社はプロ野球球団「読売ジャイアンツ」を経営しています。朝日新聞社は高校野球を主催しています。マラソン大会はほとんどが新聞社の主催です。このように報道する立場のものが、自ら「ニュースを作る」行為に手を染めるのは、自分で火をつけ自分で火を消す「マッチポンプ」と同じです。公平、公正な報道などは全く期待できません。

平成12年2月7日   ご意見・ご感想は  こちらへ     トップへ戻る      目次へ

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令和元年7月9日(追記)

 参考資料「週間現代 ぶち抜き 大特集「偽りの八百長裁判」全記録 ウソの法廷証言で本誌から4785万円を詐取」
 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/2122