A47
占領軍の代弁をしている朝日新聞

 5月3日の憲法記念日の朝日新聞に、「後ろ向きの『押しつけ論』」と題して、憲法改正論を批判する社説がありました。一部を抜粋すると次の通りです。

国民はどう評価したか
 敗戦当時、天皇主権の「国体」を守ることに腐心した為政者達は、大日本帝国憲法と本質的に変わりのない憲法を作ろうとしていた。そのことが総司令部による草案の作成、提示という事態を招く。
 彼らにとっては、総司令部が示した国民主権を軸とする草案は、まさに意に反する「押しつけ」と感じられたであろう。
 1946年5月27日付の毎日新聞に憲法に関する世論調査の結果が載っている
 草案が打ち出した象徴天皇制に対しては、85%の人が支持し、反対は13%にすぎない。・・・戦争放棄条項を必要とするか、との問いには、70%が「必要」と答え、「不要」の28%を大きく上回った。・・・
 当時の国民が、現行憲法の骨格となる理念や、条項をおおむね支持し、・・・「国体」にこだわった為政者の意識とは、相当なずれがあったというほかない。

 選挙によって国民に選ばれた日本の政治家、政府を、「為政者たち」とか、「彼ら」と呼ぶ朝日新聞は一体何者なのでしょうか。朝日新聞は日本人の立場でものを言っているのでしょうか。それとも、「彼ら為政者」は日本国民の代表者ではなく、占領軍こそ日本国民の保護者とでも言うのでしょうか。憲法を「押し付け」と感じたのは「彼ら為政者」だけではありません。「天皇機関説」を唱えた憲法学者の美濃部達吉博士は、「これでは独立国とは言えぬ」といって新憲法に最後まで反対しました(甲斐弦著「GHQ検閲官」葦書房)。

 また、この社説は毎日新聞の世論調査を引用していますが、朝日新聞は当時の新聞が占領軍の厳重な検閲、統制下にあり、占領軍の意のままの報道をしていたことを忘れてしまったのでしょうか。占領軍は、「連合国が憲法を起草したことに対する批判、日本の新憲法起草に当たって連合国最高司令部が果たした役割についての一切の言及、あるいは憲法起草に当たって連合国最高司令部が果たした役割に対する一切の批判」や、「検閲制度への言及、出版、映画、新聞、雑誌の検閲が行われていることに関する直接間接の言及」を禁止し、違反したものを削除、掲載発行禁止とした他、占領軍の作った宣伝記事の掲載を各紙に強制していました(江藤淳著「閉ざされた言語空間」文春文庫)。

 当時、占領軍に雇われた日本人「検閲官」として、開封された日本人の信書を英語に翻訳する仕事をしていた甲斐弦氏は、その著作「GHQ検閲官」の中で、「・・・あの憲法が当時の国民の総意によって、自由意志によって、成立したなどというのはやはり詭弁だと断ぜずにはおれない。はっきり言ってアメリカの押し付け憲法である。われわれ庶民は蚊帳の外に置かれていた。己の意見を率直に表明する機関もなく、機会もなく、ただ毎日いかにして生き延びるかに必死だったのである」と述べています。毎日新聞の世論調査結果が国民の自由な意思の表明であったか疑問に思います。

 また、朝日新聞は同日1面の、「憲法きょう施行53周年」という見出しの記事の中で、「日本国憲法は3日、施行から53年を迎えた。・・・野党が『人権上、問題がある』として反対した通信傍受(盗聴)法・・・成立。6月実施される総選挙では、これらの法案への各党の対応も有権者から問われる」といって、わざわざ通信傍受法に言及してこれを批判していますが、それならば、新聞、出版物、放送の事前検閲や信書の開封など、通信傍受法の比ではなかった占領軍の徹底した「人権侵害」には、なぜ一言も言及しないのでしょうか。そして、そのような検閲下、言論統制下に成立した憲法の合法性、正当性にはどうして疑問を持たないのでしょうか。

 朝日新聞は、占領軍による新聞の事前検閲や、言論統制や、信書の開封などに全く触れずに、憲法制定の経緯を論じていますが、このような重要で重大な事実を無視して論じることは、欺瞞以外の何ものでもないと思います。

平成12年5月7日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ