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世論調査とアナウンス効果

 衆議院選挙が終わり、自民党が敗北という結果になりました。その敗因については、さまざまな人がさまざまに分析していますが、具体的に根拠のあるものは少なく、選挙結果を、自分の都合の良いように解釈しているように見受けられます。

 毎日新聞は、6月26日の社説で「衆院選 先送り政治からの脱却を」と題して、次のように自民党の敗因を分析していました。

 総選挙で国民は自公保3党連立政権に厳しい審判を下した。・・・

・・・ いずれにしろ国民は、与党のばらまき政治に厳しい判断を示したわけで、・・・

・・・与党が景気や雇用など「当面する不安」に応えようとしたのに対し、野党が増税、インフレなど「将来の不安」を重視した結果とも言われたが、長期的展望を示せない与党に国民はむしろ不安定性を見て取った。さらに、きちんとした財政再建策を示さず、野党の揚げ足取りに走る姿も不真面目なものに映った。森首相の相次ぐ不用意な発言も巨大与党にあぐらをかく与党の傲慢(ごうまん)さの象徴ととらえられたと言っていい。

・・・露骨な利益誘導は保守主義者にも反発を呼んだようだ。

・・・だが森首相の「神の国」発言などが国民の猛反発を受けたことは、世論調査でも明らかだ。また国民の忌避しているものを感じ取ることも、選挙を通じて政党に求められる課題だ。

 自民党が公明党に協力した選挙区で期待した票が出なかったことは、自民党支持者の中にも公明党に対するアレルギーがあることを示している。・・・

 これらは本当に自民党の敗因なのでしょうか。何か根拠があるのでしょうか。
 毎日新聞はこれに先立つ6月16日〜18日、全国世論調査を実施し、結果を6月20日の朝刊で、「自民、安定多数の勢い」と言う見出しで次のように報じていました。

 第42回衆院選の投開票日(25日)を控え、毎日新聞は16〜18日、全国の有権者30万人を対象に特別世論調査を実施するとともに、本支社・支局の取材網を通じ、終盤情勢を分析した。森喜朗首相の「神の国」発言などで苦戦が伝えられていた自民党は、小選挙区で優位に戦いを進め、衆院の全常任委員会で、委員長を出しても野党委員数を下回らない「安定多数(254議席)」を確保する勢いで、予想を覆す自民党「独り勝ち」の状況となっている。この結果、公明、保守両党を含めた与党は300議席の大台を維持する情勢となっている。ただ、調査では、態度を決めていない人が3割弱おり、なお流動的要素が残っている。
 自民党が解散時勢力(271)を上回るかどうかは微妙だが、定数が20削減され480になったことを考慮すれば、実質的な勝利となる公算が強まっている。同党が推定議席を確保すれば、自公保3党体制は継続し、森首相が続投するものとみられる。

 この調査が正確なものであるとすれば、わずか一週間でなぜ自民党が一転して敗北を喫することになってしまったのでしょうか。選挙後に毎日新聞が自民党の敗因として指摘している事実は、ほとんどが世論調査の時点で、すでに有権者にとっては周知のことです。これを敗因とするならば世論調査時点での自民党の高支持率は説明がつきません。

 それでは、この世論調査さは正確ではなかったのでしょうか。そうではないと思います。6月27日の産経新聞の「メディア報道検証」、「『予測』が有権者の行動左右」という記事によると、産経新聞、朝日新聞も投票日前の世論調査では、それぞれ自民党273議席、257議席と勝利を予想していました。

 投票の一週間前までは、世論調査が一致して自民党の大勝利を予測していたにもかかわらず、結果が自民党の敗北になってしまったということは実に不可解です。そして、それに対する毎日新聞の分析は根拠に乏しく、世論調査結果との乖離を説明できません。選挙後、自民党の鈴木宗男総務局長は、「アナウンス効果が作用した感じがする」と指摘していましたが、自民党が惨敗した2年前の参議院選挙でも同様の現象が起きており、放置できない問題だと思います。

平成12年6月27日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ