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代理母を「おきて破り」というなら、夫婦別姓は「おきて破り」ではないのか

 5月20日の朝日新聞は社説で、「代理母――問題点を見据えたのか」と題して、次のように言っていました。

 「政府の厚生科学審議会の専門委員会は、生殖補助医療のあり方について、昨年暮れに報告書をまとめた。そこでは、代理母は『禁止』とされた」
 「・・・今回の代理出産を手がけた産婦人科医は「不妊夫婦のために肉親が純粋な気持ちでお手伝いしたいというのを、国が禁じる権利はない」という。
 たとえそうだとしても、生殖補助医療が勝手気ままに実施されることに不安や嫌悪感を持つ人は多いに違いない。
 開かれた論議をもとに、きちんとした枠組みを作るべきだと考える。それまでは、
おきて破りは控えてほしい」

 朝日新聞は「おきてを守れ」と言っていますが、どんなおきてがあるのでしょう。誰がそのおきてを作ったのでしょうか。「おきてを守れ」とは、民主主義国家にふさわしからぬもの言いだと思います。民主主義国家の国民は、政府の「報告書」には拘束されません。
 日本産婦人科学会は「代理母」を認めていませんが、根津医師は98年に非配偶者間の体外受精を行ったことにより、日本産婦人科学会をすでに除名されています。除名された会員に「おきて」を守る義務はありません。
 また、今回の父親、母親、代理母が、日本産婦人科学会の取り決め(おきて)に、従わなければならない理由があるのでしょうか。医師の団体に過ぎない産婦人科学会が、倫理問題で医師や患者を拘束するような決定をすることは、カルテル行為であり、越権行為だと思います。 

 それに、朝日新聞は「おきて破り」には、いつも厳しい態度で臨んでいるのでしょうか。例えば、夫婦別姓は法の認めるところではありません。夫婦別姓によって日常の生活が混乱したり、家族制度が悪影響を受けると主張する人は少なくありません。それにもかかわらず、法の認めない夫婦別姓を実生活において強行し、なし崩し的に既成事実を作ろうとしている人たちがいますが、朝日新聞は彼らを「おきて破り」と非難するどころか声援を送っています。

 在日韓国人の中はかつて法に定められた、指紋押捺を拒否したものがいましたが、朝日新聞は彼らを「おきて破り」と非難したことはありません。また、現在でも彼らの中には外国人登録証の携帯を拒否しているものがいますが、彼らに対しても同様です。朝日新聞があるときは「おきて」を守ることを主張し、あるときは「おきて」を破るものに声援を送っているのは、ダブルスタンダードだと思います。

 生殖補助医療に倫理上の問題はつきもので、代理母にだけある問題ではありません。非配偶者間の人工受精は、体内、体外を問わず深刻な倫理上の問題をはらんでいますが、朝日新聞はこれらの問題は不問にしています。どうして「代理母」にだけこだわるのでしょうか。社説の中に、「第三者の女性を妊娠・出産のための手段として利用するものであり」とありますが、この辺が一番大きな理由ではないでしょうか。倫理よりも、フェミニズムの観点だと思います。

平成13年5月21日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ


(平成13年5月20日 朝日新聞社説)

■代理母――問題点を見据えたのか           (太字強調は 安藤)
 代理母による赤ちゃんが日本でも生まれていた。子宮を手術で摘出した妻とその夫の体外受精卵を、妻の妹の子宮に戻した。妹が進んで希望したという。

 妊娠すると、女性の体にはさまざまな変化が立て続けに起こっていく。月満ちて出産すれば、乳房が張ってきて、やがてどろりとした初乳が出てくる。

 免疫成分がたっぷり入ったこの初乳は、新生児にぜひ飲ませてあげるべきものといわれる。肌と肌を触れ合ってお乳をあげることで、母は子への愛着を深めていく。

 代理母になることを志願した女性は、母としての感情が芽生えることを恐れて授乳をしないのだろうか。それとも、子どもが健康に育つことを第一に考えて、母乳で育てるのだろうか。

 代理母が母乳を与える姿を見たら「本来の母」はどんな気持ちになるだろう。最初はほほ笑ましく思ったとしても、1カ月後、2カ月後はどうか。逆に、母乳を与えないとしたら、代理母は張った乳房からどんな気持ちで乳を搾り出すのだろう。

 子育てには、思い通りにいかないこともたくさんある。そんなとき、つい代理出産に原因を求める気持ちになりはしないだろうか。あるいは、代理母から無言の圧力を受けるような気分にならないだろうか。代理母が身近な人であればあるほど、複雑な感情がうずまくだろう。そのことが、子どもにどんな影響を及ぼすのか。

 産婦人科医は、子どもが無事に生まれれば任務を果たせたと思うのだろう。だが、子どもと母にはその後の長い人生がある。

 子どもが欲しいと強く願っている当人たちには、先々のことまで突き詰めて考える余裕はないかもしれない。だからこそ、冷静な第三者が相談にのり、考える材料を提供することが必要だと思う。

 政府の厚生科学審議会の専門委員会は、生殖補助医療のあり方について、昨年暮れに報告書をまとめた。そこでは、代理母は「禁止」とされた。

 第三者の女性を妊娠・出産のための手段として利用するものであり、「生まれてくる子の福祉を優先する」という原則に照らしても望ましくない、というのが理由だ。実際、米国では、依頼人と代理母の間で子どもを取り合いする事態も起きた。

 報告書は、法整備や公的な管理運営機関づくりなどを提言し、政府はその実現に向けて検討を始めている。

 今回の代理出産を手がけた産婦人科医は「不妊夫婦のために肉親が純粋な気持ちでお手伝いしたいというのを、国が禁じる権利はない」という。

 たとえそうだとしても、生殖補助医療が勝手気ままに実施されることに不安や嫌悪感を持つ人は多いに違いない。

 開かれた論議をもとに、きちんとした枠組みを作るべきだと考える。それまでは、おきて破りは控えてほしい。