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朝日新聞のダブルスタンダード(その3) ナショナリズムは悪か

 7月8日の朝日新聞は、「〈日本の予感:2〉ナショナリズム見え隠れ」という見出しで、中国からの農産物に対するセーフガードの問題について、次のように報じていました。

 「『国賊!』、3月に自民党本部で開かれた党の農業基本政策小委員会。議員の一人が発したこの一言に会場は静まり返った。
 セーフガード(緊急輸入制限措置)の発動問題が大詰めを迎えていた。委員会が集中的に開かれ、その席には中国から野菜を輸入している商社や食品会社、種苗会社の代表が呼びつけられた。・・・ 」
 「『日本農業を守れといいながら、実は選挙地盤の利益を優先させるのだとしたら、露骨な利益誘導政治ということ。鼻白みますね』と農水省の担当者ですら漏らす。・・・」
 「グローバル化の中、日本と中国は相互依存を強めている。衣料品や電気製品はもちろん、日本の食卓は、中国からの輸入食品なくしては成り立たなくなった。・・・」
 「前政権から継続するセーフガードは、『構造改革』とは逆の方向を向く。底に見え隠れするナショナリズム。それは歴史教科書問題、靖国問題と同じ流れと映る。・・・」
 「族議員による旧来型の保護農政は、農民の「自助努力」をそぎかねない。現実に進められているのは、遅れている部分を温存する護送船団農政ではないか・・・」


 朝日新聞は、日本の農業を守ろうとする政治家の動きを、「露骨な利益誘導政治」とか、「ナショナリズム」と言って非難していますが、このような問題は農産物の輸出入を巡って必ず起きる問題で、今回に限ったことではありません。以前、アメリカがコメや牛肉などの輸入拡大を日本に迫ったときも「コメ議員」や「畜産議員」は補助金獲得などの「利益誘導政治」をしていたはずです。
 どこの国でも、国内の農業保護を巡って政治家がすることは、多かれ少なかれ「利益誘導政治」であって、わが国だけのものではありません。アメリカが日本に対してコメや、牛肉の輸入拡大を迫るのも、鉄鋼製品の輸入拡大阻止を図るのも、その背後には選挙区に関連業界を抱える政治家の働きかけがあってのことです。

 朝日新聞は、アメリカが日本に対してコメや、牛肉の輸入拡大を迫ったときは、国内の農家を保護する議員の動きを「露骨な利益誘導政治」とか、「遅れている部分を温存する護送船団農政」とは言いませんでした。それどころか、アメリカをはじめとする外国からの農産物の輸入増加により、食糧自給率が低下することを憂い、食糧安保の必要性を説いていたと思います。同じ農産物の輸入を巡る外国との摩擦で、相手がアメリカの時と中国の時とでは、主張していることが正反対なのはなぜでしょうか。

 朝日新聞はセーフガードの問題とは直接関係ない教科書問題、靖国神社参拝の問題と結びつけて、ナショナリズムを警戒していますが、ナショナリズムとは忌むべきものなのでしょうか。例えば、沖縄の婦女暴行事件に対する沖縄県民、日本国民の怒りはナショナリズムを抜きにしては考えられないと思いますが、朝日新聞は沖縄県民の怒りの底にあるナショナリズムにはなぜ警戒の声を挙げないのでしょうか。中国に対するナショナリズムは警戒し、反米ナショナリズムは容認すると言うのは矛盾していると思います。

平成13年7月8日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ