A9
公正取引委員長殿                                     平成10年2月1日

言論の自由を損なう新聞の宅配制度

1.
 新聞の再販の問題点が公正取引委員会で取り上げられて以来、新聞業界はなりふり構わぬキャンペーンで独禁法逃れに必死です。再販制度がなくなると、新聞の宅配がなくなるとか質が低下するとか、話しをすり替えたり、経済の原則、経験則に反することをいっています。新聞、書籍の再販は原則通り禁止すべきです。例外とする理由はありません。新聞は紙でで来た商品です。「文化」でもなければ「言論の自由」でもありません。新聞が「文化」だから例外とすべきだという屁理屈が通るならば、他の工業製品もすべて例外扱いしなければなりません。なぜならどの工業製品も「創造的なデザイン」、「独創的な技術」の固まりといえるからです。ものを書く労働だけが特別神聖視され、経済的に優遇されなければならない理由はありません。(書籍の中にはエロ本だってあるのですから。)
2.
 しかし、新聞業界にはもっと重要で深刻な問題点があります。それは専売店による宅配制度です。この制度は国民の言論の自由を大きく損なっています。専売店制度は日米自動車交渉でも問題となった、いわゆる系列販売の典型です。メーカーである新聞社が販売店を完全に支配している排他的な流通です。従って新聞業界に新規に参入しようとすれば一から全国に宅配網を作らなければならず、実際には不可能です。そのために日本では新しい新聞が発行されるということとが、全くないのです。
 同じマスコミでも月刊誌や、週刊誌では全く事情が異なります。月刊誌、週刊誌は、印刷は印刷会社、製本は製本会社と制作自身が分業化、外注化されている上、流通も取次店→書店と流れていくため小規模の会社でも新規参入することが可能です。このため次々と新しい雑誌が創刊される一方で競争に敗れ、人気のなくなった雑誌が休刊から廃刊の道をたどっています。消費者は自由競争の恩恵に浴しているといえます(再販問題を除いて)。
3.
 また宅配制度のもとでの月極料金、無期限長期購読は消費者の比較、選択の機会を奪っているという問題があります。月刊誌、週刊誌を書店で買うときはどれにしようかと消費者は選択します。表紙を見て、内容を見て、あるいは電車内の広告を見て、値段も考えて買います。面白くなかったら次からは買いません。
 これに対して月極料金のもとでの無期限購読ではそのような比較、選択の機会がありません。現在の新聞の価格は駅の売店で売っている方が、コストの高い宅配よりも高くなっています。値段が高くても宅配がいいか、値段の安いスタンド売りがいいかの選択ができません。これは消費者に宅配を強いているといえます。また、新聞の休刊日は申し合わせたように各社一斉です。これらはいずれも消費者の選択の機会を奪うものです。
 元朝日新聞の記者で、週刊朝日の副編集長だった稲垣武氏は井沢元彦氏との対談の中で「日本の新聞社が倒産しないのは宅配制度に支えられているからです.もし宅配制度が壊滅して、みんな駅のキヨスクで新聞を買うようになったら、言論の優劣による競争結果がはっきり現れる。それがないから、品質の悪い記事をのうのうと書いている」と宅配制度の問題点を指摘しています。(井沢元彦著「虚報の構造 オオカミ少年の系譜 朝日ジャーナリズムに異議あり」)
4.
 現在の読売、朝日の800万、900万部は決して消費者の支持があってのことではないのです。
 いくつかの根拠をあげることができます。
(1)
新聞社の出している週刊誌や、月刊誌は決して売れていません。「月刊ASAHI」が創刊後わずか2〜3年で廃刊になつたのは記憶に新しいところです。「ASAHIジャーナル」もこれと前後して廃刊になっています。「週刊朝日」は日刊の朝日新聞より偏向度合いが相当トーンダウンしていますが、それでもあまり売れていません。
(2)
朝日新聞の「声」欄を見ると、投書しているのは主婦、無職の老人、中学生、高校生がほとんどで、まともな大人には相手にされていない新聞だということがわかります。
(3)
新聞購読のきっかけは拡張員の勧誘によるものが多数を占めますが、この拡張員は商品の説明、PRを全くせず、ひたすらしつこさと強引さを競っています。(拡張員に限らず、この世に新聞のPRが全く存在しないこと自体、自由で公正な競争が行われていないことを示していす。)従って部数が多いことは、強引な拡張員を多数抱えていることの証明にはなっても、多数の読者の支持を得ていることの証明にはなりません。
(4)
   新聞販売店の高額な景品が問題になりますが、現在の日本では新聞は景品の多寡で部数の競争をしているのであり、価格や品質(紙面)で競っているのではないということがわかります。
5.
 このように、決して人気があるとは思えない新聞が大部数を維持しているのはひとえに専売店による宅配制度のおかげなのです。消費者の利益のためには、新聞業界に真の自由競争を実現しなければなりません。そのためには次のようなことが必要です。
(1)
新聞の再販制を禁止し、価格競争をさせる。新聞社だけでなく販売店間の競争も必要である。
(2)
専売店制度を禁止し、販売店が新聞社の支配を脱しどの新聞も自由に扱えるようにする。
(3)

新聞の店頭価格と配達料の内訳を明らかにし、所定の配達料を払えばどの新聞,雑誌も自由に配達できるようにする。(当然、配達料は販売店が自由に、独自に決定する。) 


           ご意見・ご感想は   こちらへ       トップへ戻る      A目次へ