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揚げ足取りに終始する朝日新聞の防衛白書批判

 8月2日の朝日新聞夕刊は、防衛庁が発表した平成14年度版の防衛白書について、「脅威認識にズレ」、「実態に応じた配備必要」と言う見出しで、次のように論じていました。

 「平成14年版防衛白書は同時多発テロに見られるような国際テロを日本にとっても『重大な挑戦』と位置づけた。・・・白書が前提とする脅威認識は、実態からずれている
 「昨年11月に朝日新聞などが実施した・・・世論調査で、軍事的脅威を感じる国を選んでもらった。日本では朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が4割を占め、トップ
 「一方で白書は中国の軍事大国化への警戒感も示している。・・・しかし、それがどの程度日本の脅威になっているのかという視点が欠けている
 「逆に白書が『消えつつある脅威』と見るのが極東ロシア軍だ。・・・ところが自衛隊は冷戦時代、ソ連からの着上陸侵攻を想定して北海道に配備した、もっとも機動力に富んだ2個師団をいまだにそのまま置いている。・・・この矛盾をどう解消するのか、白書から問題意識は読みとれない
 「・・・さらに脅威の変化に伴い、役割が薄れた部隊の縮小、廃止も同時に検討しなければ、急激に変化する国際情勢に対応できる国防体制は作れないだろう」

 朝日新聞は「テロ」を脅威と認識するのは「ズレ」ていると言っています。国民が脅威と認識しているのは北朝鮮であると言うのがその根拠ですが、それなら、防衛白書に対する批判は、北朝鮮の脅威に対する認識と方策が不十分であるという観点からなされるべきであると思います。それをしないで、朝日新聞が「脅威の認識がズレている云々」といって白書を批判するのは、単なる批判のための批判であって建設的な防衛論議ではないと思います。

 また、軍拡のめざましい中国について、さすがの朝日新聞も脅威であることを否定してはいないものの、「それがどの程度、日本の脅威になっているのかという視点が欠けている」と、訳のわからないことを言ってごまかしていますが、朝日新聞には、核兵器の増強に力を入れ、台湾への武力行使を否定せず、わが国の排他的経済水域で傍若無人の振る舞いをする中国を、潜在的脅威と認識する視点が欠けています

 また、極東ロシア軍の脅威が減少した今なお、自衛隊が北海道に重点的に展開していることを批判していますが、朝日新聞はソ連の脅威が現実のものだったときに、脅威の存在を認め、北方重視の戦力展開を支持していたのでしょうか。私の記憶ではそんな主張はしていなかったと思います。当時の朝日新聞が主張していたことは、自衛隊は違憲であると言うこと、自衛隊の存在は平和を危うくすると言うことと、自衛隊は税金の無駄遣いであると言うことだけで、まともな防衛論議などしていなかったと思います。彼らが今言っていることも、北方重視が時代遅れだと言っているだけで、脅威の減少した北方に代えて、どこを(何を)重視すべきだという議論は全くしていません。

 朝日新聞は「急激に変化する国際情勢に対応できる国防体制は作れないだろう」と言っていますが、いったいどのような国防体制を作ろうと考えているのでしょうか。記事を読んでいると、朝日新聞がまともな防衛論議をしているかのように見えますが、彼らが言っていることは揚げ足取りのような批判だけで、建設的なまともな議論は全くありません。そして、最後に言っていることはいつもと同じ「部隊の縮小、廃止」で、結局は「脅威の変化」も「実態に応じた配備必要」も、「部隊の縮小、廃止」を主張するための口実にすぎないことがわかります。

 もともと、自衛隊は違憲であるという立場から脱していない朝日新聞に、まともな防衛論議を期待するのは間違いかもしれません。しかしそうであれば、朝日新聞は今までと同じ自衛隊不要論を唱えているべきだと思います。「実態に応じた配備必要」などと言って読者を欺くことはやめるべきだと思います。

平成14年8月6日     ご意見・ご感想は こちらへ     トップへ戻る     目次へ