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裁判所は適正価格を決められるか

 近鉄不動産が、平成2〜3年のバブル期に販売した分譲住宅のうち、売れ残った分をその後大幅に値引きして売ったことについて、高値で買った住民が差額の返還を求めていた裁判で、大阪地方裁判所は判決で返還要求を却下しました。しかし、判決理由の中で、「土地価格の動向などを調査検討せず、二分の一近くも値下げをしたのは適切でなく、経過説明などを求める原告の心情は理解できる」、「値下げをすれば、従前の購入者から不満が噴出することは予想できるのだから、差額返還を含め、購入者の納得を得られるような方策を行うことが求められている。」と判決主文とは全く矛盾することを言っています。

 バブル期の前後に不動産価格の激変を誰が予測できたでしょうか。それを今言うのは単なる結果論だと思います。予想できていれば金融機関の巨額の不良債権は発生しなかったはずです。
 物の値段は絶えず変化します。日本は統制経済、公定価格の国ではないのです。スーパーで昨日一万円で買った物が、翌日半額の五千円で売られていて悔しい思いをすることは日常しばしば経験することです。しかしレジに行って差額を返せと言う人はいません。それが常識です。それが経済の常識です。近鉄に対して差額の返還を要求している人は、もしこれが値下げでなく値上げであったとしたら、差額を追加払いする用意があるのでしょうか。

 住民の悔しい気持ちは分かりますが、それを分譲業者にぶつけるのは間違いです。分譲業者だってバブルの崩壊で大損しているところが多いのです。不動産価格の激変が原因なのです。その激変が分譲の途中で起きただけのことなのです。大規模な分譲では販売期間が長期にわたりますから、ある程度避けられないことです。小規模な分譲で短期間で完売してしまえば、買った後でいくら値下がりしても、こういう問題は表面化しません。しかし買った人が損をしていることに変わりはありません。ただ目に見える形で現れるかどうかの違いがあるだけです。
それにしても、裁判所が判決に矛盾することを当事者に勧めることは、自ら判決を、裁判を否定しているようなものだと思います。

平成10年3月22日     ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      C目次へ