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火災保険の地震免責条項をめぐる、裁判官の「放言」

 11月25日の読売新聞朝刊に、「火災保険 地震免責問い直す必要」、「神戸地裁判決で言及」という見出しの記事がありました。阪神大震災直後のに発生した火事の延焼で、自宅が全焼した夫婦が、地震免責条項を理由に保険金の支払いを拒否した保険会社2社を相手取り、保険金の支払いを求めていた裁判で、原告の請求は棄却されたものの、裁判官が、「時代の変遷によって地震免責の範囲の縮小や廃止の可能性も問いなおす必要がある」と、踏み込んだ判断を示したそうです。

 さらに、記事は、「判決は『現在の都市部では、地震による大火災が発生する可能性が大きく、今回も地震の影響で火災が延焼、拡大した』として請求を棄却。しかし、橋詰裁判長は、初めて免責条項の法的拘束力が認められた関東大震災時に比べ、『現代の建物の耐震性や消防力は大いに異なる』と言及。『原因が地震であることだけで、常に免責しなければ保険制度が成り立たないと言う議論はできない』とした」と報じています。

 裁判官は、「関東大震災時に比べ、『現代の建物の耐震性や消防力は大いに異なる』と言っていますが、阪神大震災の時に消防力は無力で、燃えるに任せたところは少なくありませんでした。関東大震災の時と比べて大きく異なっているのは、当時はなかった地震保険(地震による火災の場合にも支払われる)が現代にはあるということです。この原告達も地震保険に加入する道はあったのです。それにもかかわらず自らの意志で地震保険に加入しなかっただけです。地震保険に加入していて保険金の支払いを受けた保険加入者もいるのです。

 民間の保険は救済事業ではありません。裁判官のいうとおり火災保険の地震免責条項をなくしたら、加入者は当然それに見合った保険料を、保険会社に支払わなければなりません。結果は火災保険と地震保険が抱き合わせの商品になるだけです。すべての火災保険加入者に地震保険の加入を強制することは、消費者の利益に合致するのでしょうか。

 保険契約は営利事業の商品であって、法律ではありません。どのような保険商品が望ましく、どのような商品が望ましくないかは、自由競争の市場で消費者が決めることであって、裁判官が決めることではありません。必要なのは規制緩和であって「官」の口出しではありません。規制緩和、自由化が叫ばれる中で、裁判官が商品の内容に口を出すのは大きな誤りであると思います。

 裁判官は争われている当事者間の問題について判断すればいいのです。火災保険がどうあるべきかについては、誰も裁判所に判断を求めてはいません。裁判官のこのような「放言」が後を絶たないのは、新聞がこの種の、「放言」、「脱線発言」を批判せず、逆に好意的に報道しているからだと思います。このような裁判官の発言は三権分立に反するだけでなく、司法の信頼を損ない、民主政治に有害だと思います。

平成11年11月27日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ