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裁判所が治療期間を決めた理由

 12月26日名古屋家裁は、愛知県豊川市で「人を殺す経験をしてみたかった」といって、64歳の主婦の頭を金づちでで殴り、首など四十数カ所を包丁で刺して殺し、帰宅した夫にも重傷を負わせた17歳の少年に、「アスペルガー症候群による発達遅滞がある」として、医療少年院送致とする保護処分を言い渡しました。収容期間は少なくとも5年だそうです。12月26日の読売新聞の記事によると、「岩田嘉彦裁判官が少年に『きちっとした治療を受けて立派な成人になって欲しい』と語りかけると、少年は『自分も頑張ってきます』と、落ち着いた表情で答えた」とのことです。2人の会話からは事件の悲惨さも、被害者の無念さも感じとることが出来ません。

 同じ26日大分家裁で、女性の下着を盗んだことが発覚するのを恐れ、一家3人を刺殺し、3人に重傷を負わせた15歳の少年に、「重症の行為障害がある」として、相当長期間の医療少年院送致とする保護処分を言い渡しました。12月26日の読売新聞にの記事によると、裁判所は「最初から育てなおすようにして、命の尊さを教えることが不可欠」と強調したそうです。

 医療少年院へ送致する目的は何なのでしょうか。治療が目的であるとするならば、なぜ裁判所が治療期間に言及するのでしょうか。裁判所は精神的障害のある少年に対しては、成人の精神障害者に対する裁判同様、司法の対象外を宣告するだけで良いと思います。そのあとの、少年に対してどのような治療が、どのくらいの期間必要なのかは、医師が決める問題で、司法の問題ではないと思います。5年とか、相当長期間とか治療期間を決める根拠は何だったのでしょうか。犯罪の結果が重大であったことと、犯人の病気の治療にどのくらいの期間がかかるかは、全く別の問題です。

 治療期間に見込みを立てることはもともと困難で、その必要もありません。裁判所が5年と見込んでも、5年では治らないかもしれません。その時は裁判所は期間の延長を命じるのでしょうか。裁判所が5年とか、相当長期間とか治療期間を決める根拠は何もないと思います。裁判所が根拠のない治療期間を決めたのは、本当は彼らが病人であるという認識を持っていないのと、刑事処分を回避したことに対する批判を回避するために、少年院送致処分を厳しく見せかける必要があったからだと思います。

平成12年12月29日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ