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裁判所は国会議員を裁くことができるのか −ハンセン病西日本訴訟−      (5月28日産経新聞掲載)

 熊本地方裁判所は、「ハンセン病西日本訴訟」の原告勝訴の判決で、被告の国(厚生省)の責任を指摘しただけでなく、国会(国会議員)の責任も指摘しました。5月11日の読売新聞で報じられた判決要旨を見ると次のように言っています。

 「・・・遅くとも昭和40年以降に新法の隔離規定を廃止しなかった国会議員の立法上の不作為につき、国家賠償法上の違法性を認めるのが相当である」

 裁判所は国会議員の責任と言っていますが、議員個人の責任を問うならば、個人名を明らかにする必要があります。個人々で考えも行動も違うでしょうから、国会議員を一律に論じるのは意味がありません。
 それに、もし個人の責任を問うならば訴訟当事者のひとりとして、弁明と上訴の機会が与えられなければなりません。欠席裁判で一方的に断罪し、控訴の機会も与えないのは暗黒裁判だと思います。国会議員を訴訟当事者として扱ったり、そのような機会を与えることが出来ないのならば、国会議員の責任を問うこと自体が、もともと無理なのだと思います。

 憲法は第51条(議員の発言表決の無責任)で、「両議員の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外でその責任を問われない」と定めていますが、今回の判決は院外である法廷で議員の責任を問うたものであり、憲法違反だと思います。

 議員個人の責任ではなく、国会の責任を指摘しているのであれば、三権分立と国会を国権の最高機関としている憲法の規定上問題があると思います。憲法が司法に認めているのは、違憲立法審査権だけであり、それ以外に司法に優越的地位を認めていません。裁判所にできることは、「らい予防法は憲法違反である」指摘するところまでであって、国会が「らい予防法」を廃止しなかったと言う立法上の不作為につき、違法であると指摘することは、違憲立法審査権の範囲を逸脱したものであり、立法権への介入になると思います。

平成13年5月24日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ