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裁判所はなぜ写真撮影を禁じるのか

 11月22日の産経新聞は、「林真須美被告の法廷イラスト 二審も肖像権認定」、「公益性ない」、「新潮社に賠償命令」と言う見出しで次のように報じていました。

 「和歌山の毒カレー事件で殺人罪などに問われ、公判中の林真須美被告(41)が『記事で名誉を棄損され、法廷内の隠し撮りやイラストで肖像権を侵害された』として、写真週刊誌『フォーカス』(休刊)の山本伊吾編集長や新潮社などに二千二百万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が21日、大阪高裁であった」
 「大啓光裁判長は改めてイラストの肖像権を認めた上で、『@事実の公共性 A目的の公益性 B手段の相当性を満たす場合、肖像権侵害にはならないが、(本件の)記事は真真須美被告を揶揄する内容であり、公益性は認められず、違法』と判断した」

 この問題はフォーカスが法廷内で写真の隠し撮りをしたことと、それを非難した裁判所に対抗して「新聞社のイラスト掲載は容認しているのに、なぜ写真はいけないのか」と訴えて、法廷内の林真須美被告のイラストを掲載したことに端を発した問題です。単なる「報道と肖像権の問題」ではありません。
 今回、裁判所が公共性、公益性がないことを理由に新潮社の主張を退けたと言うことは、逆に言えば公共性、公益性のある報道のためであれば、法廷内で撮影した写真の掲載は容認される、つまり、法廷内の写真撮影は容認されるという事になると思います。
 民主主義国家では裁判はすべて公開で行われることが大原則になっていて、今回のような重大事件の場合は国民の関心も高く、傍聴希望者が定員の何倍にも達しているのですから、傍聴できない国民のために裁判の様子を克明に伝えるという報道の役割は極めて公共性が高いと言えます。写真撮影を認めないという理由はありません。それにもかかわらず、裁判所はなぜ法廷内での写真撮影を禁止するのでしょうか。

 同じ11月22日の朝日新聞夕刊に、雪印食品の偽装牛肉事件の裁判で判決が言い渡されたことを報じる記事がありましたが、「判決を聞く各被告」と言う名前付きの説明で、五人の雪印の元社員が判決を聞いているイラストが掲載されていました。法廷内で絵を描くことは禁止されているでしょうから、このイラストを描いた人は、法廷内の有様を脳裏に焼き付けて、法廷外で絵にしたものと思われますが、このような特異な才能を持った「法廷絵師」の活躍に奇異の念を禁じ得ません。このデジタル映像の時代に、「法廷絵師」が活躍していることを彼ら裁判官は異常と感じないのでしょうか。

 最近、裁判所は傍聴者による撮影を警戒して、傍聴者からカメラ付き携帯電話を取り上げています。どうして彼らはそこまでして写真を撮らせまいとするのでしょうか。
 それは、写真撮影を容認すれば、その次は録音、録画、テレビ中継と言うことになりかねず、そうなれば、お粗末な審理の実態が白日の下に晒されて、旧態依然の秘密主義の上に成り立っている司法の威信が一挙に失墜すると怖れているからだと思います。
 裁判所は写真を撮影させない理由として、被告人の人権云々と言っていますが、もし、本当に人権のことを案じているのなら、被告人を手錠腰縄付きで入廷させたり、裁判官が被告人に対して横柄でぞんざいな口のきき方をしたり、余計な説教をすることを改め、被告人が法廷で屈辱感を味わう事のないように改める事が先決だと思います。

平成14年11月23日     ご意見・ご感想は こちらへ     トップへ戻る     目次へ