C42
国際感覚の欠如した裁判所(遺棄化学兵器、日本政府に責任はない)

 9月30日の読売新聞は、「毒ガス被害 国に賠償命令」と言う見出しで次のように報じていました。

 
「片山裁判長は・・・『中国政府に遺棄兵器の回収を申し入れたり、情報を提供していれば、被害発生を回避できた』と判断。72年9月の日中共同声明で国交が回復した後も兵器を放置し続け、措置を講じなかった日本政府の不作為を『違法な公権力の行使』と認定した」

 裁判所は、
「72年9月の日中共同声明で国交が回復した後も・・・」と言って、日本軍が化学兵器を遺棄した責任を直接問わず、日本政府のその後の不作為を批判していますが、日中共同声明で、中国が賠償請求を放棄しているため、化学兵器を遺棄したこと自体の責任を問えないのであれば、その後放置したことの責任も当然問えないと考えるべきだと思います。
 中国が賠償請求を放棄したことにより、日本政府は以後、被害発生を回避する義務を免除されると考えるべきだと思います。それ以後、中国人に被害が及ばないように回避義務を負うのは中国政府であって、日本政府ではありません。日本にあるとすればそれは善意に基づく協力義務であって、法的責任を伴うものではありません。日本政府に不作為責任はないと思います。

 また、裁判所は日本政府の不作為を「違法な公権力の行使」と言っていますが、日本政府は中国国内の中国人に「公権力を行使」できるのでしょうか。中国政府はかかる司法判断を容認するのでしょうか。この裁判所の判断を容認すると言うことは、中国国内の中国人に対する日本政府の公権力の行使自体には異義を唱えないと言うことになると思いますが、中国政府にはそういう認識があるのでしょうか。
 日本政府は中国国内の中国人に、公権力を行使できる立場ではないと思います。それは主権の侵害になります。従って仮に何らかの「不作為」があったとしても、それは公権力の行使には当たらず、中国人に対する賠償責任は発生しないと思います。

平成15年10月11日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る   目次へ