C44
外国人に日本国政府を訴える権利があるのか

 3月7日の「asahi.com」は、「残留孤児の連れ子退去処分『不当』原告が逆転勝訴 」という見出しで、次のように報じていました。
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 中国残留日本人孤児の井上鶴嗣さん(64)=熊本県菊陽町=の妻(59)の連れ子と家族計7人が、「実子と偽って入国した」などとして在留特別許可が認められず、国から強制退去処分にされたのは不当だとして、処分の取り消しを求めた行政訴訟の控訴審判決が7日、福岡高裁であった。石塚章夫裁判長は「家族の実態などを国際人権条約に照らせば、処分は社会通念上著しく妥当性を欠く」と判断し、国側の主張を認めた一審判決を破棄して、強制退去処分を取り消した。
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 裁判所は、「国際人権条約に照らせば」と言って、条約を引き合いに出していますが、そもそも、条約とは国家間の約束であり、個人は条約の当事者ではないのですから、個人が条約を根拠に権利を主張するのは不当であると思います。条約を根拠に日本政府の行動を、「条約違反」と主張できるのは、条約の当事者である各国政府または国際機関だけであり、日本の国内裁判所にはそのような国家間の問題を裁く権限はないと思います。裁判所が条約を引き合いに出して判断できるのは、条約に基づく国内法が制定されているときだけだと思います。

 裁判所もそれは判っているのか、条約を一応引き合いに出してはいるものの、条約を根拠にはせず、条約はあくまで「照らした」だけで、根拠は「社会通念」としています。非常に狡猾で誤解を招く表現です。

 在日中国人の権利を保護する必要があるのであれば、中国政府が日本政府に自国民の権利の擁護を外交ルートを通じて申し入れ、外交交渉により決着をはかるべきだと思います。日本政府の行動が、国際人権条約に違反しているかどうかはその時に両国間で議論すべきだと思います。

 そもそも、外国人が日本政府を相手に裁判所に訴える権利があるのか非常に疑問です。外国人はもちろん日本国憲法の定める権利の主体ではありません。日本政府を相手に権利を主張できるのは日本国民に限られると思います。例外的に外国人が日本政府を相手に訴えることができるのは、外国人居留民を国民に準じた取り扱いをするという「内国民待遇」という考え方が適用される場合に限られると思います。

 しかるに、今回のような日本に入国させることの是非の問題は、外国人特有の問題であり、日本国民には起こりえない問題です。内国民待遇が適用されるケースではありません。このような問題は本来「外交問題」として処理されるべきであり、彼らが裁判所に訴えるのはお門違いであると思います。また、このような問題に、「国際人権条約」とか、「社会通念」などと言う姑息な口実をつけて介入する裁判所は、政府の外交権・行政権を侵害していると思います。

平成17年3月13日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ