C52
裁判員制度の趣旨を理解できない“法律家”

 9月5日の産経新聞は、「法律家より厳格 量刑相場に一石」という見出しで、次のように報じていました。
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 検察側の求刑通りとなった4日の青森地裁判決。主任弁護人の竹本真紀弁護士は「裁判員は、法律家以上に強姦(ごうかん)の結果を重く見たのではないか」と感想を漏らした。被告よりも被害者に感情が傾きがちな“素人感覚”厳罰化を招くともいわれる裁判員裁判では、被告なりの事情を訴え、情状面を強調せざるをえない弁護活動は困難を強いられそうだ。3日間の審理は、“求刑の8ガケ”とされてきたいわゆる「量刑相場」に一石を投じるものとなった。 
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 産経新聞の論旨は、明快さを欠いていますが、「感情が傾きがち」とか、「素人感覚」とか、「厳罰化を招く」などと言う表現からは、今回の裁判員の判決に批判的であることは間違いないと思います。

 記事は「感情が傾きがち」と言って、裁判員の判断が感情論であるかのように言っていますが、何か根拠があるのでしょうか。人の意見を根拠もなく「感情論」と見下して非難するのは不当です。
 次に、「素人感覚」を批判していますが、そもそも、裁判員制度というものは、“法律家”(判事、検事、弁護士)達の議論、結論(判決)に、国民の常識との乖離が目立ち、裁判を司法業界の人間だけに任せておけない、と言う問題意識から生まれたものです。「素人感覚」を裁判に反映するのが裁判員制度の本旨なのです。その点に思いをいたせば、裁判員の判断を「素人感覚」と言って非難するのは、裁判員制度の趣旨を理解していない、見当違いの非難という他はありません。

 事件や犯罪について、業界の人たちと素人では感覚が異なります。身近に経験した盗難や暴行事件は素人にとっては許し難い出来事ですが、業界の人たちにとっては、よくある出来事にすぎません。彼らは
事件や犯罪に対して正常な感覚が麻痺している人達なのです。この感覚が麻痺した人達に裁判を委ねていては大変なことになります。

 また、「“求刑の8ガケ”とされてきたいわゆる『量刑相場』」などというものは、裁判が業界の人間達により、馴れ合いによって行われていることを意味しています。このような現実を当然視し、裁判員によりこれが是正される事態を、“一石を投じる”などと言って驚いている産経新聞は、国民の側ではなく業界の側にたって考えているという他はありません。

平成21年9月5日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ