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B型肝炎訴訟のバカげた「和解」は、憲法違反

 6月24日の読売新聞は、「『生きるための賠償』和解協議で裁判長 原告『胸熱くなった』」という見出しで次のように報じていました。
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 「やっとここまで来た」。B型肝炎訴訟の和解内容が確定した24日午前の和解協議。28日に国と原告が基本合意書に調印することが決まり、全国から札幌地裁に集まった原告らは一様に安堵(あんど)の表情を見せた。
 午前11時から札幌地裁で始まった和解協議は、約20分で終了。全国原告団の谷口三枝子代表は、同地裁の正門前で、支援者らに調印式の日程が決まったことを報告し、「裁判長は国に対し『過去の賠償ではなく、今後、生きるための賠償であってほしい』と言ってくれた。その温かい言葉に、胸が熱くなった」と涙ぐんだ。その上で、「原告を含め被害者全員の救済が、一日も早く来るようにしてほしい」と声を震わせた。
 北海道原告団の高橋朋己代表も、裁判長の発言を、「明日への展望が開けるような言葉だった」と振り返り、「私たちは、生まれつき病気だったわけではない。国はしっかりした真実を国民に知らせて、謝罪してほしい」と力を込めた。
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 また、「B型肝炎訴訟 和解金財源 最大の課題(解説)」と言う解説記事は、次のように論じていました。
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全国10地裁で続いているB型肝炎訴訟は、昨年5月に10地裁を代表する形で札幌地裁で和解協議が始まり、24日、基本合意書の確認で最終段階にたどり着いた。今後は、早急に救済法を制定し、和解金支払いのため、安定した財源を確保することが国の最大の課題になる。
 政府は和解金の財源確保について、「国民全体で広く分かち合う観点から、特別の財源措置を講ずる」としている。今後30年間で最大3・2兆円とも推計される財源を確保するには、増税の議論も避けられないだろう。・・・
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 私は進駐軍が作った憲法を、「聖典視」するものではありませんが、現行の憲法第八十五条は、明確にこう規定しています。
「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする」

 和解の受け入れは債務を負担することに他なりません。しかも、金額が3.2兆円という巨額です。政府の一存でこのような巨額の債務引き受けは民主政治に反します。

 国家賠償であるのなら、それは明確な科学的根拠、法律的根拠、証拠に基づく判決であることが必要です。すべてが曖昧な「和解」などと言う姑息な手段で、議会の承認を得ることなく、巨額の債務を引き受けることは許されません。

 しかも地裁レベルという低レベルの法廷で、「10地裁を代表する形で札幌地裁で和解協議」などと言う解決は、司法のルールをも逸脱したものと言わざるを得ません。

 政府はなぜ、「和解」を選んだのでしょうか。それは責任の所在を曖昧にできるからです。巨額の損害賠償となれば、公務員の責任追及は免れません。しかし、和解であれば臭いものすべてに蓋ができます。彼らにとっては、たとえそのために巨額の国民負担が生じようと、そんなことは知ったことではないのです。

 裁判所にとっても、後世の批判に耐えない判決文を書くよりも、請求を棄却して原告達の恨みを買うよりも、和解はずっと気楽です。国民の財布で行政府の官僚と、司法府の官僚がモラル・ハザードを演じているのです。

平成23年6月25日   ご意見ご感想は   こちらへ   トップへ戻る    目次へ