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安全保障法制の整備議論、公明党による“言葉遊び”「他に手段なし」の持つ危険 −裁判所が差し止める危険−

 4月17日のNHKテレビは、「与党 集団的自衛権で『他に手段なし』の新要件了承」と言う見出しで、次のように報じていました。
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NHKニュース詳細  4月17日 12時15分

与党 集団的自衛権で「他に手段なし」の新要件了承

 安全保障法制の整備に向けた与党協議が開かれ、自民・公明両党は、集団的自衛権を行使できる武力行使の新3要件のうち、「他に適当な手段がない」という項目を武力攻撃事態対処法に盛り込むとする政府の方針を了承しました。
一方、公明党は、集団的自衛権の行使が可能になる事態の名称を「存立危機事態」とすることに対し、「国民を守るという
印象が弱い」と指摘しました。

 17日の与党協議で、政府は、安全保障法制の整備で焦点となる集団的自衛権の行使を可能にする関連法案などの全容を説明しました。この中で、政府は、公明党が歯止めとして盛り込むよう求めていた武力行使の新3要件のうちの、「他に適当な手段がない」という項目については、武力攻撃事態対処法を改正し、政府が国会に承認を求める対処基本方針の中に、「他に適当な手段がなく、武力行使が必要な理由」を記載するよう定めるとしています。これによって、政府は
「他に手段がない」ことの説明責任を負うことになります。

 これに対して、自民・公明両党から異論は出ず、政府の方針を了承しました。
また、政府は、集団的自衛権の行使が可能になる事態を「存立危機事態」と位置づけるとしています。そして、行使によって排除できる対象は他国に対するあらゆる武力攻撃ではなく、「わが国と密接な関係にある他国への武力攻撃で、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限られることを明らかにするため、こうした攻撃を新たに「存立危機武力攻撃」と定義すると説明しました。
これに対し、自民党が「妥当な考え方だ」と容認したのに対し、公明党は「『存立危機事態』という名称では、国民を守るという印象が弱いのではないか」と指摘しました。

 さらに、政府が、周辺事態法を改正して整備する「重要影響事態安全確保法」について、自衛隊による後方支援活動の範囲に一定の制約をかけたいとする公明党の要望に応じて、法律の目的に、「日米安全保障条約の効果的な運用に寄与することを中核とする事態に対処する外国との連携を強化する」という規定を加えることを説明し、了承されました。
自民・公明両党は来週も週2回、与党協議を開いて、調整を進めることにしています。

高村氏「事前承認で相違が若干残る」

 与党協議の座長を務める自民党の高村副総裁は与党協議のあと記者会見し、「自民・公明両党として、政府が示した考えに『すべていい』と言ったわけではない。新しい恒久法で自衛隊を派遣する際に、例外なく国会の事前承認を必要とするかどうかについて、自民党と公明党で考えが離れているところも若干、残っている」と述べました。
また、高村氏は、日米防衛協力の指針、ガイドラインの見直しに関連して、「ガイドラインの見直しが安全保障法制の議論と整合性を持って進められているのかチェックする必要がある」と述べ、次回の協議で、政府側から、アメリカ側との協議の状況について聞き取る考えを示しました。

北側氏「来週、国会関与の座長案」

 与党協議の座長代理を務める公明党の北側副代表は与党協議のあと記者会見し、焦点となっている恒久法の「国際平和支援法」で自衛隊を派遣する際の国会承認の在り方について、「与党間で合意に至っておらず、公明党は、例外なく事前承認が必要だという従来の立場を維持している。この問題は国会の関与の問題なので、政府から説明してもらうのではなく、与党が主体となって議論していく」と述べました。
そのうえで北側氏は、「今は、高村副総裁を中心に、国会の継続的な関与をどう位置づけるかについて協議をしている真っ最中だ。来週のどこかの時点で、座長の高村副総裁と座長代理の私との間で、国会関与についての座長案を提示し、与党協議に諮る場面があると思う」と述べました。
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 確かに「存立危機事態」と言う言葉は曖昧ですが、「他に適当な手段がない」というのも
曖昧・抽象的な表現であって、公明党が主張するように、これを入れることによって、「国民を守るという印象」が強くなるとは思えません。かえって、有事の際に“他に適当な手段”があるかないかの議論を誘発しかねない危険が潜んでいると思います。

 このような意味のない語句を条文に挿入することは、創価学会員以外の人間にとっては
存在意義のない公明党に、存在意義があるかのように装うための、“言葉遊び”、ごまかしに過ぎないと思います。

 このような言葉遊びは、単に無意味なだけに止まらず、実際に“有事”の際には思わぬ障害となって、国の進路を誤ることになりかねないと思います。なぜなら、有事の際にこの文言を盾にとって、
“他に手段がある”ことを主張し、あるいは“他に手段がない”ことの証明がないと主張して、自衛隊の出動に対して「差し止め訴訟」を起こす“弁護士グループ”が現れ、裁判所が“他に手段がない”ことの証明が不十分だとして、自衛隊の出動を差し止める“仮処分”を認める決定を出す恐れがあるからです。

 このような事態は通常の常識からは考えにくいことですが、
近年のわが国の裁判所は常識が通用するところではなくなりつつあります。それは過日の「高浜原発の再稼働差し止めの仮処分の裁判」で、福井地裁が原告住民の訴えを認め、再稼働を差し止めの仮処分を認める決定をしたことからも明らかです(下記参照)。
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[スキャナー]科学的知見を否定 高浜原発差し止め仮処分…「絶対安全結論ありき」識者批判
2015年4月15日3時0分 読売新聞

再稼働差し止めが命じられた高浜原発の(左から)3号機、4号機(本社ヘリから)

 関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)の再稼働差し止めを命じた14日の福井地裁の仮処分決定は、東京電力福島第一原発事故の経験から生まれた新規制基準を「合理的でない」と一蹴した。
科学的知見を否定した形の決定には根強い批判があるが、差し止めの効力は直ちに生じ、他の原発の再稼働に向けた動きにも影響を与えそうだ。(大阪社会部 滝川昇、大阪経済部 杉目真吾)

「11月再稼働」に暗雲

  ■ゼロリスク

 今回の決定で樋口英明裁判長は、原子力規制委員会の安全審査のよりどころである「新規制基準」(一昨年7月施行)を、「緩やか過ぎる」と断じた。

 新規制基準は福島第一原発事故を教訓に重大事故や地震、津波の対策を大幅に強化しており、策定した規制委は「世界一厳しい」(田中俊一委員長)と自負する。高浜3、4号機については1年7か月で延べ約70回の安全審査を経て、今年2月に「合格」とした。

 これに対し、樋口裁判長は、昨年12月の仮処分申請から今年3月まで2回で審尋を終結。関電が求めた専門家による意見書提出も認めなかった

 決定では、同じく樋口裁判長が、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止めを命じた昨年5月の判決同様、独自の論理構成で、原発に絶対の安全を求める「ゼロリスク」の姿勢が示されたが、そこに対する批判は数多い

 元東京高裁判事で中央大法科大学院の升田純教授(民事法)は、「どんな地震がいつ原発を襲うか分からないとの不安感から、絶対安全を求めるという結論が最初にありきの決定
裁判官は原発の専門家ではなく、科学的な知見に謙虚に向き合う必要があるが、そのような姿勢があったか疑問だ」と指摘する。

  ■「最大の武器」

 再稼働反対派は、今回の決定に勢いづく。

 決定後、福井市内で記者会見した「脱原発弁護団全国連絡会」(東京)共同代表の河合弘之弁護士は「再稼働を阻止する最大の武器を手にした」と強調した。

 武器とは仮処分の申し立て。通常の訴訟では判決が出ても、控訴・上告すれば判決確定まで効力が発生しないが、差し迫った危険行為などの中止を求める仮処分なら、認められれば直ちに従う法的義務が生じ、決定を不服とする異議や執行停止が認められない限り、効力は持続するからだ。

 同連絡会によると、福島第一原発事故後、再稼働などの差し止めを求め、訴訟19件、仮処分申請8件などが起こされたが、請求が認められたのは、これまで
樋口裁判長による2件だけだ。

 各地の反対派弁護団は今後、仮処分申請を積極的に行う方針だ。22日には九州電力川内せんだい原発1、2号機(鹿児島県)の差し止めを巡る鹿児島地裁の仮処分決定も予定され、森雅美弁護団長は「福井地裁決定の論理を適用すれば、同じような決定が出ることは十分考えられる」と期待する。

  ■スケジュール

 決定を受け、関電は異議を申し立てる方針だが、判断は仮処分の審尋とは別の裁判官が行うのが通例。仮処分手続きに詳しい元裁判官は「新たな裁判官が資料を読み込み、判断するまで数か月はかかる」と話す。

 そこで不透明になってくるのが、関電が高浜原発で目指してきた「11月再稼働」。関電は「再稼働に向けた準備作業は可能」との立場だが、内部には「今回の決定で地元同意のハードルは高くなる」(役員)との見方もある。既に高浜町議会は再稼働に同意しているが、町長や福井県知事はまだ態度を明らかにしておらず、県議の一人は決定後、「地元もより慎重な判断が必要になってくる」と語った。

審査「合格」2原発…地震・津波対策 大幅強化

 福島第一原発事故を教訓に作られた新規制基準に基づき、原子力規制委が行う安全審査は、地震や津波などに対する安全対策の強化を電力会社に求めている。安全設計の基本方針(原子炉設置変更許可)などの審査があり、最後は現地で各機器の使用前検査も行う。

 規制委に審査を申請しているのは関西電力など全国11社の15原発24基。このうち、既に「合格」とされたのは川内1、2号機と、今回の決定で再稼働が差し止められた高浜3、4号機だ。伊方3号機は審査が終了し、四電は14日に追加の安全対策をまとめた「補正書」を提出。夏にも3例目の合格証が出る見通しだ。

 一方、関電大飯3、4号機と、九電玄海3、4号機(佐賀県)も審査がほぼ終わったが、地震想定が引き上げられて大規模な耐震補強工事が必要になるなどしており、再稼働は来年以降になるとみられる。

 このほかの原発の多くは、想定される最大の地震の揺れ(基準地震動)が固まらなかったり、敷地内の破砕帯(断層)が活断層かどうかの判断がつかなかったりするため審査が長引き、再稼働の時期は見通せない状況だ。(大阪科学部 萩原隆史)
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平成27年4月19日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ