C71
裁判所は新潮社(報道機関)に対する名誉毀損厳罰を改め、言論の自由を尊重すべき 
−名誉毀損の乱用は韓国の産経新聞加藤記者起訴と同じ−

 12月21日のNHKニュースは「NHK会長の記事で新潮社に賠償命令」というタイトルで、次のように報じていました。
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NHK ニュース詳細
NHK会長の記事で新潮社に賠償命令
12月21日 17時44分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151221/k10010348341000.html

NHK会長の記事で新潮社に賠償命令

 週刊誌の記事で名誉を傷つけられたとして、NHKと籾井勝人会長が、発行元の新潮社を訴えた裁判で、東京地方裁判所は「記事の内容は真実とは認められない」などとして、新潮社に対し、籾井会長に550万円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。

 この裁判は、去年4月に発売された「週刊新潮」で、「籾井会長が初出勤の日に予定を勘違いした」などとする記事が掲載されたことに対し、会長とNHKが新潮社を訴えたものです。

 判決で、東京地方裁判所の本間健裕裁判長は「週刊誌の担当デスクの取材メモは、うわさを聞いたという話に基づくもので、客観的な裏付けがなく、会長本人に直接取材したという記者の証言にも疑問が残る。記事の内容は真実とは認められない」などとして、新潮社に対し籾井会長に550万円を支払うよう命じました。NHKへの賠償は認めませんでした。

 判決について「週刊新潮」編集部は「極めて遺憾だ。判決文の内容を精査したうえで、控訴を検討する」というコメントを出しました。
一方、籾井会長とNHKは「根拠のない誤った記事であったことが認められたと受け止めています」としています。
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 裁判所は真実かどうかだけに関心を持ち、真実とは認められないことを理由に原告勝訴にして、新潮社に巨額の賠償金(罰金?)支払いを命じていますが、言論の自由の観点が欠落しています。
 裁判所は、「・・・証言にも疑問が残る。記事の内容は真実とは認められない」と言っていますが、原告側は記事が虚偽である事を証明できたのでしょうか。民事の損害賠償を求める裁判で、虚偽の立証責任は原告側にあるのではないのでしょうか。

 新聞・雑誌など報道機関の記事は、必ずしも真実と証明できることばかりではありません。
真実と証明できることだけを記事にしていたのでは、マスコミ・報道機関の使命は果たせません。場合によっては取材源の秘匿が必要になります。単に事実と証明できないだけで、名誉毀損と断定するのは大変危険です。

 今回の事件は、
NHKも訴訟当事者(原告)になっていることから、これは報道の内容を巡っての報道機関同士の争いとも言えます。彼等は誌面や電波を通じて読者や視聴者に対して主張ができる立場にあります。非力な一国民ではありません。原告達は週刊新潮の記事に異義があるならば訴訟に訴えるよりも先に、読者・視聴者に対して自らの主張・反論を展開すべきだったと思います。
 金銭目的でなければ、問題の当否を判断するのは
司法(裁判所)ではなく読者・視聴者がすれば十分です。(しかるに、NHKはそれをしなかっただけでなく、このニュース報道においても何が、どう、問題だったのか、視聴者には皆目分からない報道です)

 なぜそうかと言えば、国民の
言論の自由、報道の自由は不可侵の権利として守られなければならないからです。言うまでもなく言論の自由は、憲法で“保証”された、国民の権利の中で最も重視されなければならない権利です。憲法で“尊重”されるに過ぎない“名誉権”とは比較にならない重さがあります。しかるに最近の司法は言論の自由を軽視する傾向が顕著です。

 裁判所は550万円の支払いを命じましたが、この金額には根拠がありません。この事件に限らず、具体的な人身傷害や物的損害がない民事の損害賠償は、賠償金額に具体的な法的根拠・基準がありません。

 金額に具体的な根拠・基準がない中で、
一昔前に比べると名誉毀損によるマスコミへの損害賠償命令の金額は高額化の一途をたどり、損害賠償と言うよりも罰金の傾向が強まっています。このような傾向が強まると言論が萎縮していくことは明らかです。

 最近の韓国人に対するいわゆる
“ヘイトスピーチ”を巡る、損害賠償や法律による言論規制論議は、今回のマスコミに対する“名誉毀損”損害賠償問題と同一線上にある言論の自由に対する攻撃です。

 韓国では産経新聞の加藤記者が、記事で朴槿恵大統領の名誉を傷つけたとして出国を禁止された上で起訴され、1年以上の裁判を経過して結局無罪となりましたが、
報道機関に対する名誉毀損による処罰は、言論や報道の自由を侵害すると世界中から非難を浴びました。韓国の司法は無罪とはしたものの、韓国の報道機関に対する名誉毀損の乱発には厳しい視線が向けられることになりました。

 
日本にとって、特に日本の判事・弁護士などの司法関係者にとって、韓国の出来事は決して他人ごとではありません。これを他山の石として、政治に関わる言論に対する名誉毀損の適用は、その言論が真実であるか否かを問わず避けるべきだと思います。

平成27年12月22日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ