C75
最高裁判事に対する国民審査 誠実さに欠け、有権者を馬鹿にしている最高裁の判事達 −質問に対する回答拒否は国民審査制度への抵抗−
10月17日の読売新聞に、「国民審査を受ける最高裁7裁判官」と言うタイトルの次のような記事がありました。
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国民審査を受ける最高裁7裁判官
2017年10月17日5時0分 読売
最高裁判所の裁判官が「憲法の番人」の役割を担う人物としてふさわしいかどうかをチェックする国民審査が、22日の衆院選と同時に実施される。今回対象となる7人の裁判官について、略歴や関与した主な裁判、アンケートに対する回答をまとめた。(名前は告示順。敬称略)
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小池 裕(こいけ ひろし)
【略歴】75年東大法。77年判事補任官。13年東京地裁所長。14年東京高裁長官。15年4月から最高裁判事。神奈川県出身。66歳。
【主な裁判】▽民法が規定する女性の再婚禁止期間について、100日を超える部分を「違憲」とする判決▽第4次厚木基地騒音訴訟で、自衛隊機の夜間早朝の飛行差し止めを命じた2審を破棄して請求を棄却する判決
【回答】〈1〉常に中立公正であること〈2〉憲法の改正は国民的な議論を経て国民が判断することで、回答は控えたい。具体的な事件を離れて、憲法条項のあり方について見解を述べることは控えたい〈3〉究極の刑罰である死刑については様々な意見や議論があり、格別の検討が必要。見解を述べることは控えたい〈4〉事実認定について常に謙虚さと畏れをもって取り組み、誤りのないよう様々な角度から慎重に証拠を吟味することが大切〈5〉若いスポーツ選手、棋士がのびのびと活躍していること〈6〉読書、速歩による散歩、総菜作り。「初心忘るべからず」
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戸倉 三郎(とくら さぶろう)
【略歴】80年一橋大法。82年判事補任官。14年最高裁事務総長。16年東京高裁長官。17年3月から最高裁判事。山口県出身。63歳。
【主な裁判】▽16年参院選の1票の格差訴訟で「合憲」の多数意見
【回答】〈1〉原審までの手続き・判断を先入観なく審査したい〈2〉憲法改正は国会による発議と国民投票によるもので、司法権に属する立場から個人的な意見を述べることは控えたい。諸情勢が変化する中で憲法9条を巡り様々な議論があることは承知しているが、意見は控えたい〈3〉死刑制度の存廃は国民の間で様々な観点から議論されるべき問題で、司法権に属する立場から個人的な意見を述べることは控えたい〈4〉誤判はあってはならず、裁判官は虚心に被告人の弁解や証拠を精査し、わずかな疑問点でも納得するまで解明する姿勢を堅持しなければと自戒している〈5〉100メートルで日本人も10秒の壁を破ったこと〈6〉鉄道趣味全般。健康維持で始めたウォーキングは10年になる。「一隅を照らす」、「一度に一つずつ」
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山口 厚(やまぐち あつし)
【略歴】76年東大法。12年東大大学院法学政治学研究科長・法学部長。14年早稲田大法科大学院教授。16年弁護士登録。17年2月から最高裁判事。東京都出身。63歳。
【主な裁判】▽裁判所の令状なしのGPS捜査を違法とする判決▽16年参院選の1票の格差訴訟で「合憲」の多数意見
【回答】〈1〉当事者の主張に耳を傾け、証拠に基づいて中立・公平で公正な判断をすることが必要〈2〉憲法改正の是非は国民が判断し、決めるべきことで、憲法を尊重し擁護する義務を負う立場にある者としては回答を控えたい〈3〉死刑の存廃については国民的な議論が大切だと思う。一般論としての回答は控える〈4〉判断の誤りを避けるため、様々な観点から証拠評価をしっかりと行い、手続きを適正に運用することが重要だ〈5〉法科大学院教授時代の教え子から司法試験合格の報告が届いたこと〈6〉ウォーキングと読書(乱読)。研究者の時には、小さなものを執筆する場合も常に「全力投球」を心がけていた
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菅野 博之(かんの ひろゆき)
【略歴】78年東北大法。80年判事補任官。14年東京高裁部総括判事。15年大阪高裁長官。16年9月から最高裁判事。北海道出身。65歳。
【主な裁判】▽大分県の教員汚職事件の賠償金を巡り、住民敗訴の2審を破棄して、審理を差し戻す判決▽16年参院選の1票の格差訴訟で「合憲」の多数意見
【回答】〈1〉誠実と共感を信条とし、意識的に多数の観点から見ること〈2〉憲法改正は、議論のもと、各国民が決めることで、その解釈適用に当たっている裁判官が発言すべきではないと考える。憲法9条は国民一人ひとりが考えていく問題で、裁判官が一般的意見を述べるべきではない〈3〉死刑制度の存廃は国民の意見により決められるべき立法の問題〈4〉誤判はあってはならない。それを防ぐには、各裁判官が客観的証拠を重視するという裁判の基本を再確認しながら、多面的に考え抜くことが重要だ〈5〉この数年、何人もの日本人科学者がノーベル賞を受賞したこと〈6〉読書。「誠実と共感」
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大谷 直人(おおたに なおと)
【略歴】75年東大法。77年判事補任官。12年最高裁事務総長。14年大阪高裁長官。15年2月から最高裁判事。東京都出身。65歳。
【主な裁判】▽民法が規定する女性の再婚禁止期間について、100日を超える部分を「違憲」とする判決▽民法の夫婦同姓の規定を「合憲」とする判決
【回答】〈1〉予断を持たずに事件に取り組む〈2〉裁判の中で憲法判断を示す立場にあり、答えは控えたいが、憲法は我が国における「法の支配」の基盤となるもので、普段からそのありように国民の目が注がれていることは大切なことと考える〈3〉国民の間で議論を深めていくべき重要なテーマだと思っているが、立法論に関わる質問には答えは控えたい〈4〉誤判を防ぐためには、一つ一つの事件で当事者が適切な訴訟活動を行い、裁判官が曇りなき目で判断を下すことが何より重要だ〈5〉名演と観客席の熱気が一体となったライブに出会い、幸福感を味わえたこと〈6〉コンサート、観劇。「人間は努力する限り迷うものだ」
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木沢 克之(きざわ かつゆき)
【略歴】74年立教大法。77年弁護士登録。04年立教大法科大学院教授。09年法務省人権擁護委員。16年7月から最高裁判事。東京都出身。66歳。
【主な裁判】▽学校周辺などでの風俗案内所の営業を禁じる京都府条例を「合憲」とする初判断▽故人の預貯金が裁判上の遺産分割の対象になるとした決定
【回答】〈1〉弁護士出身の裁判官の自覚と誇りを持って、健全な社会常識にかなう法律の解釈・適用に努めたい〈2〉憲法改正は各国民が真剣に考え議論すべきもの。(9条について)国家存立の基盤である国の安全保障政策は各国民が自分の問題として真剣に考えるべき事柄で、個人的意見は控える〈3〉司法の立場からの意見は控える。とはいえ、死刑は究極の刑罰で、適用は極めて慎重に行われるべきもの〈4〉誤判は絶対にあってはならない。事実認定では思い込みを排し、様々な視点から十分に証拠を吟味することが大事〈5〉稀勢の里関の優勝と横綱昇進〈6〉歌舞伎鑑賞。「道を伝えて、己を伝えず」
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林 景一(はやしけいいち)
【略歴】74年京大法。同年外務省入省。08年内閣官房副長官補。11年駐英国大使。17年4月から最高裁判事。山口県出身。66歳。
【主な裁判】▽16年参院選の1票の格差訴訟で「投票価値の平等の追求は民主主義の国際標準であり、国際的潮流だ」として「違憲状態」の意見
【回答】〈1〉公平・公正な審理を尽くしたい〈2〉国会が発議し、国民投票で決まる話なので、最高裁の一員として考えを申し上げることは控える。9条を巡る議論が活発化していることは承知しているが、最高裁の一員としてこの議論に加わるのは適当でないと思う〈3〉死刑は刑罰として究極の選択であり、そのあり方は国際的な潮流も踏まえながら国民、その代表である国会で議論が深められるべきものだ〈4〉冤罪はあってはならない。裁判の段階で先入観にとらわれず、証拠に基づいた裁判をしていくことだ〈5〉サッカー日本代表のワールドカップ・ロシア大会出場決定〈6〉サッカー観戦と音楽。日頃の心構えは「一期一会」
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罷免に「×」 無記入は信任
国民審査は、内閣によって任命された最高裁裁判官(長官は内閣の指名に基づき天皇が任命)が、その職責にふさわしい人物かどうか、国民が審査する制度。憲法79条の規定により、任命後初めて行われる衆院選の際に実施される。
投票用紙には対象者全員の氏名が記載されており、罷免ひめんすべきだと思う裁判官がいれば、氏名の上の欄に「×」印をつける。何も記入しなければ信任したとみなされる。「×」印以外を記入すると票全体が無効になる。
罷免を求める票が有効票の過半数に上った裁判官は罷免されるが、過去に審査を受けた延べ172人のうち、罷免票の割合は最高でも15.2%で、実際に罷免された人はいない。
その後も定年の70歳まで10年ごとに衆院選に合わせて再審査される。ただ、1965年以降、60歳未満で任命された人はおらず、審査の機会は事実上、1度しかない。今回対象となる7人も、審査を受けるのは最初で最後となる。
期日前投票の開始日は、前回までは投票日の「7日前」だったが、今回から衆院選と同じ「11日前」に前倒しされ、告示日翌日の今月11日にスタートした。
アンケート項目 〈1〉最高裁裁判官としての信条、審理にあたっての心構え〈2〉憲法改正、憲法9条についてどう考えるか〈3〉死刑制度の存廃、再審請求と執行との関係に対する意見〈4〉再審無罪判決が相次ぐ中、冤罪(えんざい)を生まない司法の実現のための教訓は何か〈5〉最近うれしかったこと〈6〉趣味、好きな言葉や座右の銘
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公務員の一員で有り、憲法に基づく審査制度による審査対象者である判事達が、有権者の直接審査を受けるに当たって自ら何も訴えることをせず、質問についても回答拒否を連発すると言うようなことがあって良いのでしょうか。
立法権(あるいは行政権)に属することなので意見を控えたいと言っていますが、その立法権(あるいは行政権)に属する問題の適否を判断するのが彼等の職責である以上、そして憲法に基づく国民審査を受ける身である以上、「答えない」が許される話ではありません。回答拒否の連発は被審査者として誠実さに欠けています。
判事達には公務員として、審査対象者として審査者である国民の質問に答える義務があるはずです。判事達の回答拒否は国民審査に対する非協力(抵抗)で有り、これでは国民審査は有名無実となってしまい、憲法の精神が踏みにじられていることは明白だと思います。判事全員が口裏を合わせたように回答拒否を連発するのは、答える気がない、説明する気がないと考えるほかはありません。
読売新聞の質問も質・量ともに適切とは言えませんが、少なくとも判事の側に国民審査の意義を認識して答える気があれば、答え方を工夫していくらでも答えようがあると思います。
この点については判事によって多少の違いが出ているようで、この点を考慮して彼等を評価すれば、小池、戸倉、山口、菅野の4名の回答は零点で、他の3名は100点満点で5〜10点ぐらいだと思います。
平成29年10月21日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ