D171
法律と大阪市の条例とで全く異なる「ヘイトスピーチ」の定義
 −韓国・朝鮮人が嫌悪・憎悪の対象になっている現実と、その原因・本質から目を逸らし、揚げ足取りに終始する日本の司法・行政・立法は救いのない法律家の世界−

 1月17日のNHKニュースは、「ヘイトスピーチで名前公表 条例は憲法に違反せず 大阪地裁」というタイトルで、次のように報じていました。
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ヘイトスピーチで名前公表 条例は憲法に違反せず 大阪地裁
2020年1月17日 17時55分 NHK

 民族差別をあおる
ヘイトスピーチを行った個人や団体の名前の公表を定めた大阪市の条例が、表現の自由を保障した憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、大阪地方裁判所は「条例の目的は正当で、表現の自由の制限はやむをえない限度にとどまっている」として憲法に違反しないとする判断を示しました。

 大阪市はヘイトスピーチの抑止策として、弁護士などでつくる審査会が認定した場合は、ヘイトスピーチを行った個人や団体の名前などを公表することを市の条例で定めています。

この条例について、市内の男女8人が裁判を起こし、憲法が保障する表現の自由を過度に制約するおそれがあると訴えていました。

 17日の判決で、大阪地方裁判所の三輪方大裁判長は「条例は表現の自由を制限する側面があるものの、
民族差別憎悪の感情を増幅させることや暴力行為に発展することを抑止するという目的は正当で、名前などの公表も公共の福祉による合理的でやむをえない限度にとどまっていて、表現の自由に対する制限として容認される」と述べて、憲法に違反しないとする判断を示し、原告の訴えを退けました。

 判決後に会見した原告側の弁護士は「基準があいまいな規制は表現者を萎縮させる。納得はしないが、問題を議論するうえでは土台となる重要な判断だ」と話しました。

大阪 松井市長「合憲と判断されよかった」

 大阪市の松井市長は判決のあと記者団に対し「条例が合憲と判断されてよかった。
生まれた場所や国籍で、その人の存在価値や意義を否定するような表現が、この世界からなくなってくれればいいと思う」と述べました。
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 この大阪市の「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(下記参照)」を、同時期に制定されたいわゆる
「ヘイトスピーチ対策法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)D156言論の自由を蹂躙する支離滅裂の『本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ対策法)参照』」を比較すると、大きな違いがあることに気付きます。

 まず、、いわゆる
「ヘイトスピーチ」定義が全く異なります。そもそも、「法律」の方には、「ヘイトスピーチ」という言葉がありません。これは、D156で述べたとおりですが、「法律」の方は「本邦外出身者に対する不当な差別」を問題にしている(つまり問題視しているのは“出身地差別”であり、人種、民族はない)のに対して、「大阪の条例」は非常にややこしく難解曖昧な定義をしていますが、人種若しくは民族を第一に挙げていて「出身地」はありません。
 そして、どちらにも
「韓国」、「朝鮮」とは一言も書いてありません。

 何故、こんな事になるのでしょうか。実態を見れば明らかなように、現に
日本人の「嫌悪」、「憎悪」の対象になっているのは、「韓国・朝鮮人」だけであって、他の地域の出身者が「本邦外出身地差別」の対象になっているとか、「韓国・朝鮮人」以外の人達が「人種・民族」差別の対象になっているという事例は皆無であり、「法律」と「大阪の条例」(以下、「法・例」と略す)の制定の過程を見ても、法的規制を求めているのは、「韓国・朝鮮人」だけである事は明らかです。

 つまり、「法・例」の実質的な
目的は「韓国・朝鮮人」の保護であり、この「法・例」は「韓国・朝鮮人特別保護法」に他ならないのです。それにも拘わらず、「法・例」の名称・内容から、「韓国・朝鮮」を外し、それに替えて「出身地」とか、「人種・民族」を入れるのは、「法・例」の目的・本音を隠す必要があるからです。本音(韓国・朝鮮人の特別保護)を元に「法・令」を制定することが違憲であるため、本音を隠して本音とは異なるきれい事を建前にして、「法・例」を作らざるを得なかったからです。
 「大阪の条例」の条文が
冗長で分かりにくく、曖昧なのはその為です。

 日本で
「韓国・朝鮮人」だけがそのような“嫌悪・憎悪”の対象になっていると言うことは、それなりの理由があると考えるべきです。「出身地」「人種・民族」の問題とするのは、事実の歪曲です。事態・問題の原因・本質から目を逸らし、外観だけを捉えた揚げ足取りをしているのです。(現在、世界の各地で韓国人が“差別”されると、“東洋人に対する差別”と話をすり替えるのと同じです)

 
氏名の公表が違憲か合憲か(もちろん違憲ですが)などと言うすり替えられた議論にうつつを抜かし、肝心な韓国・朝鮮人に対する嫌悪・憎悪表現の合法性を主張せず、無意味で、内容空虚な法律論に明け暮れる日本の司法・行政・立法は、救いのない法律家の世界と化していると言えます。

 何よりも、ニュース報道として、この裁判で「ヘイトスピーチ」として認定された
スピーチの内容、「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の関係する条文のいずれも視聴者に伝えなかったNHKは、マスメディアの名に値しない情報操作機関であると思います。

 二つの「法・例」で、「ヘイトスピーチの
定義」が全く異なることを誰も指摘もせず、議論にもならないと言うことは、いかにこの「ヘイトスピーチ議論」が、デタラメ欺瞞に満ちたものであるかの何よりの証拠です。

令和2年1月26日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ

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大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例
(目的)
第1条この条例は、ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を生じさせるおそれがあることに鑑み、ヘイトスピーチに対処するため本市がとる措置等に関し必要な事項を定めることにより、市民等の人権を擁護するとともにヘイトスピーチの抑止を図ることを目的とする。
(定義)
第2条この条例において
「ヘイトスピーチ」とは、次に掲げる要件のいずれにも該当する表現活動をいう。
(1) 次のいずれかを目的として行われるものであること(ウについては、当該目的が明らかに認められるものであること)
人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること
イ特定人等の権利又は自由を制限すること
ウ特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること
(2) 表現の内容又は表現活動の態様が次のいずれかに該当すること
ア特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること
イ特定人等(当該特定人等が集団であるときは、当該集団に属する個人の相当数)に脅威を感じさせるものであること
(3) 不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであること
2この条例にいう「表現活動」には、次に掲げる活動を含むものとする。
(1) 他の表現活動の内容を記録した印刷物、光ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)その他の物の販売若しくは頒布又は上映
(2) インターネットその他の高度情報通信ネットワークを利用して他の表現活動の内容を記録した文書図画又は画像等を不特定多数の者による閲覧又は視聴ができる状態に置くこと
(3) その他他の表現活動の内容を拡散する活動
3この条例において「市民」とは、本市の区域内に居住する者又は本市の区域内に通勤し若しくは通学する者をいう。
4この条例において「市民等」とは、市民又は人種若しくは民族に係る特定の属性を有する市民により構成される団体をいう。
(啓発)
第3条本市は、ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を生じさせるおそれがあることに鑑み、ヘイトスピーチによる人権侵害に関する市民の関心と理解を深めるための啓発を行うものとする。
(措置等の基本原則)
第4条次条及び第6条の規定による措置及び公表は、市民等の人権を擁護することを目的として実施されるものであることに鑑み、国による人権侵犯事件に係る救済制度等による救済措置を補完することを旨としつつ、同救済制度等と連携を図りながら実施されなければならない。

2
(拡散防止の措置及び認識等の公表)
第5条市長は、次に掲げる表現活動がヘイトスピーチに該当すると認めるときは、事案の内容に即して当該表現活動に係る表現の内容の拡散を防止するために必要な措置をとるとともに、当該表現活動がヘイトスピーチに該当する旨、表現の内容の概要及びその拡散を防止するためにとった措置並びに当該表現活動を行ったものの
氏名又は名称を公表するものとする。ただし、当該表現活動を行ったものの氏名又は名称については、これを公表することにより第1条の目的を阻害すると認められるとき、当該表現活動を行ったものの所在が判明しないときその他特別の理由があると認めるときは、公表しないことができる。
(1) 本市の区域内で行われた表現活動
(2) 本市の区域外で行われた表現活動(本市の区域内で行われたかどうか明らかでない表現活動を含む。)で次のいずれかに該当するもの
ア表現の内容が市民等に関するものであると明らかに認められる表現活動
イアに掲げる表現活動以外の表現活動で本市の区域内で行われたヘイトスピーチの内容を本市の区域内に拡散するもの
2前項の規定による措置及び公表は、表現活動が自らに関するヘイトスピーチに該当すると思料する特定人等である市民等の申出により又は職権で行うものとする。
3市長は、第1項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該公表に係るヘイトスピーチを行ったものに公表の内容及び理由を通知するとともに、相当の期間を定めて、意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。ただし、当該公表に係るヘイトスピーチを行ったものの所在が判明しないとき又は当該公表の内容が次条第3項の規定に基づき第7条の規定による大阪市ヘイトスピーチ審査会(以下「審査会」という。)の意見を聴く対象とした公表の内容と同一であり、かつ、審査会において当該公表の内容が妥当であるとの意見が述べられたときは、この限りでない。
4前項本文の意見は、市長が口頭ですることを認めたときを除き、書面により述べなければならない。
5市長は、第1項の規定による公表に当たっては、当該ヘイトスピーチの内容が拡散することのないよう十分に留意しなければならない。
6第1項の規定による公表は、インターネットを利用する方法その他市規則で定める方法により行うものとする。
(審査会の意見聴取)
第6条市長は、前条第2項の申出があったとき又は同条第1項各号に掲げる表現活動がヘイトスピーチに該当するおそれがあると認めるときは、次に掲げる事項について、あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。ただし、同条第2項の申出があった場合において、当該申出に係る表現活動が同条第1項各号のいずれにも該当しないと明らかに認められるときは、この限りでない。
(1) 当該表現活動が前条第1項各号のいずれかに該当するものであること
(2) 当該表現活動がヘイトスピーチに該当するものであること
2市長は、前項ただし書の規定により審査会の意見を聴かなかったときは、速やかにその旨を審査会に報告しなければならない。この場合において、審査会は市長に対し、当該報告に係る事項について意見を述べることができる。
3市長は、前2項の規定に基づく審査会の意見が述べられた場合において、前条第1項の規定による措置及び公表をしようとするときは、当該措置及び公表の内容について、あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。ただし、同項の規定による措置については、緊急を要するときその他第1条の目的を達成するため特に必要があると認めるときは、審査会の意見を聴かないでとることができる。
4市長は、前項ただし書の規定により審査会の意見を聴かないで前条第1項の規定による措置をとったときは、速やかにその旨を審査会に報告しなければならない。この場合において、審査会は市長に対し、当該報告に係る事項について意見を述べることができる。
5市長は、前項の規定に基づく審査会の意見が述べられたときは、前条第1項の規定による公表において、当該意見の内容を公表するものとする。
(審査会の設置)
第7条前条第1項から第4項までの規定によりその権限に属するものとされた事項について、諮問に応じて調査審議をし、又は報告に対して意見を述べさせるため、市長の附属機関として審査会を置く。
2審査会は、前項に定めるもののほか、この条例の施行に関する重要な事項について、市長の諮問に応じて調査審議をするとともに、市長に意見を述べることができる。
(審査会の組織)
第8条審査会は、委員5人以内で組織する。
2審査会の委員は、市長が、学識経験者その他適当と認める者のうちから市会の同意を得て委嘱する。
3審査会の委員の任期は、2年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
4委員は、1回に限り再任されることができる。
5審査会の委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。
6審査会の委員は、在任中、政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。
7市長は、審査会の委員が前2項の規定に違反したときは、当該委員を解嘱することができる。
(審査会の調査審議手続)
第9条審査会は、必要があると認めるときは、市長又は調査審議の対象となっている表現活動に係る第5条第2項の規定による申出をした市民等(以下「申出人」という。)に意見書又は資料の提出を求めること、適当と認める者にその知っている事実を述べさせることその他必要な調査をすることができる。
2審査会は、調査審議の対象となっている表現活動に係る申出人又は当該表現活動を行ったもの(以下これらを「関係人」という。)に対し、相当の期間を定めて、書面により意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。ただし、関係人の所在が判明しないときは、当該関係人については、この限りでない。
3前項に定めるもののほか、審査会は、関係人から申立てがあったときは、相当の期間を定めて、当該関係人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、審査会が、その必要がないと認めるときは、この限りでない。
4前項本文の場合においては、関係人は、審査会の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
5審査会は、必要があると認めるときは、その指名する委員に次に掲げる事項を行わせることができる。
(1) 第1項の規定による調査
(2) 第3項本文の規定による関係人の意見の陳述を聴くこと
(3) 第6条第2項の規定による報告を受けること
6審査会の行う調査審議の手続は、公開しない。ただし、第7条第2項に規定する事項に関する調査審議の手続については、特段の支障がない限り、公開して行うものとする。
(審査会に関する規定の委任)
第10条前3条に定めるもののほか、審査会の組織及び運営並びに調査審議の手続に関し必要な事項は、市規則で定める。
(適用上の注意)
第11条この条例の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。
(施行の細目)
第12条この条例の施行に関し必要な事項は、市規則で定める。
附則
1この条例は、公布の日から施行する。ただし、第4条から第6条まで及び次項の規定の施行期日は、市長が定める。
2第4条から第6条までの規定は、これらの規定の施行後に行われた表現活動について適用する。
3市長は、国においてヘイトスピーチに関する法制度の整備が行われた場合には、当該制度の内容及びこの条例の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
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