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インドに対する制裁は慎重に

 インドが核実験を行ったことに対する我が国の反応は総じて、画一的で、単純すぎるとおもいます。現在の核拡散防止条約、包括的核実験禁止条約は非核保有国に厳しい制約を課して核保有への道を閉ざす反面、核保有国の核保有、核兵器の高度化には何らの制限もしないと言う、きわめて不平等な条約です。インドは中国に隣接し、過去にアッサム地方北方地域の帰属をめぐって銃火を交え、現在も厳しく対立していますが、非同盟の立場もあって外国の核の傘を期待できない立場にあります。中国の脅威が減少しない以上、核保有の願望は安全保障上理由があるものと言わざるを得ません。中国の核を承認してインドの核保有のみを非難するのではインド国民にとっては公平を欠くものです。核の独占を利益とする核保有国と、非保有国である我が国とではインドの核実験に対して、取るべき対応が違ってしかるべきであると思います。

 アメリカが意図していることは、核兵器の圧倒的優位の永久化と、経済的負担の軽減を目的とした、核軍縮であって、核保有を放棄する意図は全くなく、核兵器の高度化、効率化を進めているのが現状です。現在の核保有国の核独占の永久化は、我が国の安全保障の上からも好ましくありません。自己中心的な見方を当然のように思いこんでいる、アメリカに無批判に追従することは、我が国の国益にかなうものではありません。過去に核実験を行い、その結果核を保有している国には、法的にも、道義的にもインドを批判したり、制裁を加える資格はないと思います。インドは両条約に加盟しておらず、主権国家であるインドは条約に拘束されません。アメリカやロシアが対人地雷禁止条約に参加せず、地雷を作り続けても、国際法違反にならないのと同様です。

 インドはパール博士の名を出すまでもなく、先の大戦については、日本の立場に理解を示す人が多く事あるごとに日本の「侵略」に言及する中国とは正反対の友好国です。また、中国と違ってインドは我が国より遠く離れており、核保有が直接脅威になることもありません。米国以外の国が経済制裁に慎重になっている中で、我が国だけが米国に追随して、突出した経済制裁を行うことは日印の友好関係を損ない、我が国の国益に反するおそれがあります。
 科学技術の進歩は止めようがありません。技術の普及の流れをせき止めることも不可能です。核保有国が核兵器廃棄の道筋を明らかにすることが一番重要なことだと思います。

平成10年5月17日      ご意見・ご感想は   こちらへ       トップへ戻る    E目次へ