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旧ユーゴ国際戦犯法廷は、司法の名に値するか

 ユーゴスラビア連邦のミロシェビッチ前大統領が、旧ユーゴ国際戦犯法廷に身柄を引き渡されました。6月30日の読売新聞の記事の中に次のような解説があります。

 「旧ユーゴ国際戦犯法廷 1993年の国連安全保障理事会の決議で、第二次大戦後のニュルンベルク裁判以来初めて、虐殺や拷問などの戦争犯罪を裁くためオランダのハーグに設立された」
 「・・・今や最高指導者もレイプを犯した一般兵士と同じ『人道に対する罪』で追及されるようになった。・・・この背景には、国際社会での『人道』概念の実体化がある。二年前、北大西洋条約機構(NATO)は、国連安保理の承認もないまま、自衛目的でもない空爆をユーゴに対して実施した。従来の国際法の枠組みから言えば、『違法』とも言える行動だった。しかし、NATOは批判に対し、虐殺阻止という『人道』目的を正当化の理由に掲げた」
 「ただ、『人道』は欧米諸国によって恣意的に利用されているとの非難もある」

 司法にとって大事なことは政治的に中立であることと、万人に平等であることだと思います。法廷は政治から独立したものでなければなりません。しかるに、この旧ユーゴ国際戦犯法廷は、国連安全保障理事会という国際政治機構の決議によって、ユーゴの戦争犯罪者を裁くために設立された特別裁判所であって、国際司法裁判所のような、条約に基づいて設立された常設の裁判所ではありません。

 国連安全保障理事会の決定は、その構成上常任理事国のアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の意向に大きく左右されます。五大国には拒否権もあります。政治的に中立で公平な決定は期待できません。五大国の政治家や軍人を訴追する国際戦犯法廷が設置されることは、100%ないと言っていいと思います。

 第二次大戦後数多くの戦争、内戦、紛争があり、残虐行為は今回のユーゴに限ったことではなかったと思いますが、なぜ今回に限って国際戦犯法廷が設置されるに至ったのでしょうか。法廷設置の基準が明確ではありません。どのような行為が「人道に対する罪」に当たるのかが明文化され、そのような行為は個人の犯罪として処罰されると言うことが明記された国際法はあるのでしょうか。

 今回ミロシェビッチ前大統領が罪に問われた理由のひとつは、「国連安保理の承認もないまま、自衛目的でもない空爆をユーゴに対して実施した」NATO諸国の行為を正当化する為に、彼を戦争犯罪者として断罪する必要があったからではないのでしょうか。

 安保理の決議で開設された旧ユーゴ国際戦犯法廷は、政治的決定によって設立された特別裁判所であり、その決定は万人に平等なものとは言えません。この法廷は司法と呼ぶにふさわしくないものだと思います。

平成13年7月1日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ