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アメリカはイラクに宣戦布告するか

 2月7日の読売新聞などの報道によると、アメリカのブッシュ大統領は「ゲームは終わった」として、イラクに対して「最後通告」をしたそうです。

 イラクが大量破壊兵器を保有しているという、十分な証明がなされていないにもかかわらず、「ゲームは終わった」と言って、一方的に査察を打ち切り、戦争に訴えるというのは、アメリカにとって開戦は既定のことであり、査察は開戦を正当化するセレモニーに過ぎなかったと言うことを意味していると思います。「ゲーム」をしていたのはアメリカであってイラクではありません。

 アメリカがイラク攻撃の根拠としているのは、イラクが大量破壊兵器の廃棄に応じていないと言うことですが、アメリカを含めてイラク以外の各国は誰も、核、生物、化学の大量破壊兵器を保有していないと言うことを証明していません。核兵器はインド、パキスタンを含めて7カ国が公然と保有し、イスラエル、北朝鮮も保有している疑いが濃厚です。かつて生物・化学兵器を保有していたロシアや北朝鮮、中国が、生物、化学兵器を廃棄したという証明はなされていませんし、誰も証明を求めていません。

 そういう中で、なぜイラクだけに廃棄を証明する義務があるのでしょうか。大量破壊兵器が「ある」ことを証明するのは可能ですが、「ない」ことを証明することは論理的には不可能に近いと思います。「ない」ことの立証責任をイラクに課すなどと言うことは刑事被告人に「無実の証明」をさせる以上の無理難題であり、アメリカが不可能な証明を求めているのは、単に証明不十分として開戦の口実にしたいからとしか思えません。

 アメリカのイラクに対する無理難題を見ていると、60年余り前のわが国の姿がダブって見えます。日米開戦前夜、わが国はアメリカとの開戦を望んではいませんでした。アメリカとの戦争を避けるのに必死でした。一方、アメリカはわが国との戦争を望み、わが国を戦争に追い込むことに必死でした。今や、この事実を疑う者は誰もいないと思います。
 今のイラク情勢を見て、戦争を望んでいるのがアメリカであり、イラクでないことは明らかだと思います。

 アメリカはイラクとの戦端を開くとき宣戦を布告するのでしょうか。アメリカは日本の真珠湾攻撃が宣戦布告前だったことをもって、卑怯なだまし討ちだと言って非難しています。そうであればアメリカはイラクに宣戦を布告してから軍事行動を取るべきだと思います。アメリカが主張しているとおり、開戦の動機が純粋に正義を求めるだけで、政治的、経済的な野心がないのなら、宣戦布告をためらう必要はないように思います。しかし、アメリカは多分宣戦布告はしないでしょう。それは、アメリカがいかに国際法を無理に解釈しようとしても、現在の国際法の下で自衛のため以外の戦争を正当化することは不可能だと知っているからだと思います。

 クウェート侵略に対する自衛の戦争だった前回の湾岸戦争と、今回の対イラク戦争は性格が異なります。アメリカが宣戦布告なしに軍事行動を起こせば、真珠湾を非難する資格はなくなります。宣戦布告をすれば「平和に対する罪」を犯すことになりかねません。

平成15年2月8日     ご意見・ご感想は こちらへ     トップへ戻る     目次へ