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自国の基本的立場を逸脱する外務官僚

 5月15日の朝日新聞は、5人の中国人が、旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器によって被害を受けたとして、日本政府に対して損害賠償を請求した裁判の判決を報じる記事の中で、請求権ない」という見出しで、外務省の反応を次のように報じていました。

 
「外務省の高島肇久報道官は判決について15日午前、『基本的に政府の主張が認められたと考えているが、・・・また、先の大戦にかかる個人の請求権については、72年の日中共同声明以来存在しないと考える』」

 中国政府と国民に対日請求権がすでにないことはその通りですが、その根拠は1972年の日中共同声明ではなく、1952年の日華平和条約であるというのが、日本政府の立場です。日本と中華民国政府の条約は有効で、これにより中国人の対日請求権はすでに放棄されたというのが日本政府が維持している立場です。
 そのために、1972年の日中共同声明では、第5項で「5 中華人民共和国政府は,中日両国国民の友好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」という形の一方的な宣言の形とし、しかも、中国にはすでに請求権はないという立場から、『請求権の放棄』とさせずに、『請求の放棄』とさせたものです。
 これは、この交渉に当たった当時の高嶋条約局長らの尽力によるものです。日華平和条約は無効としたい中国の周恩来首相は、高嶋局長を「法匪」と呼んだそうです。

 今回の高島報道官の発言は、日中関係におけるこのような重要な問題について基本的な認識を欠くもので、お粗末というほかはないと思います。

平成15年5月15日  ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ