E36
対北朝鮮外交にみるアメリカ外交の本質

 5月15日の読売新聞は、「北のテロ支援解除、拉致条件ならず/米国務長官」という見出しで、次のように報じていました。
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 下村官房副長官は14日夕の記者会見で、先の日米首脳会談の際、北朝鮮に対する米国のテロ支援国家指定の解除をめぐり、ライス米国務長官が日本人拉致問題の解決は指定解除の条件にはならないと説明していたことを明らかにした。
 下村副長官によると、ライス長官は「国内法に照らせば、テロ支援国家の指定は基本的にはアメリカに対するテロを念頭に置いたもので、日本の拉致問題の解決は指定解除の条件になっていない」と述べた。
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 また、5月19日の産経新聞は、
「北朝鮮が核施設稼働停止なら訪朝も 米国務次官補、可能性否定せず」という見出しで、次のように報じていました。
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 北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の米首席代表を務めるヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は18日、北朝鮮が寧辺にある核施設を稼働停止した直後に、同次官補が訪朝を検討しているとの同日付の米紙ワシントン・タイムズの報道について、「現時点では計画はない」としながらも、「6カ国協議が開かれれば、次に何をなすべきかを議論することになる」と述べ、可能性は否定しなかった。
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 アメリカが北朝鮮の「テロ支援国家指定」を解除し、ヒル国務次官補が訪朝する時期が間近と見受けられます。相次ぐアメリカの北朝鮮融和策は何を意味するのでしょうか。われわれは、美辞麗句に粉飾されたアメリカ外交の本質を見極めなければならないと思います。

 アメリカは平成14年9月に小泉首相が最初の訪朝をした時は、日本がアメリカに先駆けて北朝鮮との関係を改善することを憂慮していました。そこで、拉致問題で日本を応援するフリをして日本を煽り(最後には梯子をはずして日本を困惑させ)、日朝和解を遠のかせることに成功しました。今後は拉致問題がネックになって、当分、日朝の和解は出来ないと思います。一方、アメリカは日本の先を越すことが出来る環境が整いつつあります。

 アメリカは北朝鮮の核実験に際しては、「北朝鮮が核武装すれば、日本が核武装する」と言って中国を煽り、中国を本気で北朝鮮締め付けに走らせ、北朝鮮と中国の間にくさびを打ち込むことに成功しました。中国はアメリカの脅しを真に受けた訳ですが、少しでも知恵があれば、アメリカが日本の核武装を容認するはずがないと言うことぐらい分かるはずです。

 北朝鮮の核開発は、自国アメリカへの脅威と、核拡散の恐れがないことさえ確保されれば、アメリカにとって武力を行使してでも阻止しなければならないことではないのだと思います。まず、第一に日本を牽制する効果が大きいというメリットがあります。

 イラク戦争勃発の時に小泉首相が率先してアメリカ支持を表明したのは、北朝鮮の核とミサイルの脅威があったからだと言うことは、当時からアメリカに知られていました。小泉首相は、「世界中で『日本に対する攻撃は自国に対する攻撃だ』と言ってくれるのはアメリカだけだ」と言っていました。
 アメリカは日本の核武装は絶対認めませんから、北朝鮮の核は日本をして対米依存のやむなきに至らしめる有力なカードになります。
日本の周囲を敵だらけにして孤立させ、日本を対米依存のやむなきに至らしめ、長期にわたって半保護国状態に置くというのがアメリカの対日基本戦略だと思います。

 アメリカは何の負担もすることなく、日中両国を手玉に取って外交的利益を得ています。近隣諸国間の反目を巧妙に煽りそこにつけいる、これがアメリカ外交の本質です。
 アメリカのやっていることは、彼らの美辞麗句とは裏腹に、各地に紛争の火種を撒いて地域の平和を阻害していると言っていいと思います。

平成19年5月19日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ