E38
日米同盟の欺瞞

 10月28日の読売新聞は、「普天間移設 目立つ鳩山政権批判 米紙論調『同盟損なう』『閣内不一致』」と言う見出しで、次のように報じていました。
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 沖縄の米海兵隊普天間飛行場移設問題に関する鳩山政権の姿勢などをめぐり、日米同盟の行方を案ずる論調が米主要紙で目立っている。〈関連記事1面〉
 22日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、ブッシュ前政権で国家安全保障会議の拡散防止戦略部長を務めたカロリン・レディ氏の、「広がる日米安全保障の裂け目」と題した論文を掲載した。レディ氏は、「鳩山政権の姿勢は東アジア安全保障の礎石である日米同盟を損なう恐れがある」と憂慮。・・・
 東アジア共同体構想に関しては、「
中国の増大する軍事力や北朝鮮の弾道ミサイルの脅威にどう対抗するのか」と疑問を投げかけた。日米の安保関係で、米国が財政面でも運用面でも日本より多くを負担してきたと強調し、日米の対等な同盟関係を掲げる鳩山首相に対し、「この不平等な関係を是正したいなら、大衆迎合の政策より防衛に予算を回すことから始めるのがよい」と皮肉った。・・・
 ワシントン・ポストは22日掲載の記事で、「最もやっかいな国は中国でなく日本だ」とする国務省高官の発言を紹介。鳩山政権は
中国の軍事力増強にしっかり対応していくことに関心が薄いと指摘した。・・・
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 アメリカ人は日米同盟が大事だと言っています。中国の軍事的脅威に共同で対処する必要があると言っています。本当でしょうか。
 アメリカのゲーツ国防長官は、10月20、21日に訪日した際、日本政府に対し、今月12、13日の大統領訪日までにキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への現行移設案受け入れを決めるよう要求していましたが、期限を切って履行を求めるというのは、大事な同盟国に対するやり方とは言えません。
 かつて旧ソ連にとって、東ドイツはもっとも重要な同盟国と言われていました。しかし、東ドイツが本来の意味での同盟国ではなく、重要な衛星国に過ぎないことは周知のことでした。東ドイツに同盟を離脱する自由がなかったことは明白です。現在のわが国に日米同盟を離脱する自由があるでしょうか

 近年アメリカでは、日本に対して同盟国に対するとは思えないような対応がなされて来ました。まず、思い出すのは、アメリカ議会の「従軍慰安婦決議」です。多くの心ある日本人の抗議を無視して、日本および日本人を貶めることだけを目的として、この決議は採択されました。
 また、「北朝鮮の弾道ミサイルの脅威・・・」と言っていますが、北朝鮮の核疑惑が発覚して以来、アメリカは北朝鮮の核武装について、最大の脅威を受ける日本の立場を考慮することなく、対イランとは比較にならないほどの甘い対応に終始し、北朝鮮の時間稼ぎを許し、北朝鮮の核武装が既成事実化するのを黙認してきました。これは同盟国に対する背信行為と言っていいと思います。
 ひとたび核武装の既成事実が出来てしまえば、核兵器を放棄させるには莫大な対価が必要になります。その対価は結局日本と韓国という、アメリカの「同盟国」が負担することになります。アメリカは北の核武装解除で恩恵を受ける両国が負担するのは当然と言うでしょう。その結果、アメリカは何の負担をすることもなく、北に恩を売り、北朝鮮を中国から切り離すことに成功します。

 また、日米共同で中国の脅威に対処すると言っていますが、これも本当でしょうか。記事は「日米の不平等な関係を是正したいなら、大衆迎合の政策より防衛に予算を回すことから始めるのがよい」と皮肉っていますが、アメリカは、同盟国日本が軍事的に強大になることを容認するのでしょうか。日本が軍事的に強大になろうとしたときに、それに対して中国が不満を表明したら、アメリカは日本の立場を支持するのでしょうか。今までのように、中・韓を煽って“日本の軍事大国化”を阻止しようとすることはないのでしょうか。
 現代の日本人に日米同盟の必要性を説くには、中国の脅威を持ち出すしかないと思いますが、これが本心かどうか、単に日中間の反目を煽るだけのものなのか、オバマ大統領が、中国へ行って何と言うか注目すべきです。

 これまでのアメリカは日本と中国の相互の不信感を煽って、あるいは競わせて外交上の利益を得てきました。日本に対しては、「中国カード」を使ってアメリカへの服従を強いてきました。国務省高官の「最もやっかいな国は中国でなく日本だ」と言う言い方には、そのような意図が伺えます。日本がアメリカに対して言いたいこと、言うべきことを言えるようになるためには、アメリカに中国カードを切らせないようにすることが必要です。そのためには日本が中国に対する「日本カード」にならないことが必要です。
 鳩山政権の中国接近の真意は分かりませんが、アメリカに中国カードを切らせない、日本はアメリカのカードにはならないと言う狙いであれば評価に値すると思います。日中両国が互いにアメリカのカードにはならないと言うことは、極めて意義あることだと思います。両国の戦略的互恵関係とはそうあるべきだと思います。

平成21年11月14日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ