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多数の有権者が未投票で取り残されたまま終了する、アメリカ大統領選挙の候補者選び −選挙の公正さに疑問の余地−

 4月9日のNHKのテレビニュースは、「米大統領選 サンダース氏撤退 トランプ氏とバイデン氏の対決に」と言う見出しで、次のように報じていました。
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米大統領選 サンダース氏撤退 トランプ氏とバイデン氏の対決に
2020年4月9日 0時55分 NHK

 アメリカ大統領選挙で政権奪還を目指す野党・民主党の候補者指名を目指していた左派の
サンダース上院議員撤退を表明しました。これでバイデン前副大統領が大統領候補の指名獲得を確実にし、秋の本選挙でトランプ大統領と戦うことになりました。

 サンダース上院議員は8日、インターネットを通じて演説し、「われわれはかつてない危機に直面している。この困難な状況のなか、
勝つことができない選挙戦を続けることはわれわれに求められる重要な仕事の妨げとなる。選挙戦からの撤退を表明する」と述べ、指名争いから撤退すると明らかにしました。

 サンダース氏は格差の是正を訴えてすべての国民が医療保険に入れる仕組みを作ることや学生ローンの返済免除を掲げ、若者を中心に熱狂的な支持を得て
序盤戦で最有力候補に躍り出ました。

 しかし、本選挙でトランプ大統領に勝つための支持の広がりを期待できないという見方が強く、先月3日のスーパーチューズデーでバイデン前副大統領に
巻き返されその後も相次いで敗れて獲得した代議員の数で大きくリードされていました。

 さらに
新型コロナウイルスの感染急拡大で、集会や選挙運動の自粛を迫られたのに加え、予備選挙を延期する州が相次ぎ、党内から撤退を求める声が強まっていました。

 サンダース氏の撤退で
バイデン氏は8月に予定される民主党の全国党大会で大統領候補の指名を獲得することが確実となり、11月の本選挙でトランプ大統領と戦うことになりました。

(中略)

 トランプ大統領 サンダース氏の支持者に支持を呼びかけ
トランプ大統領はサンダース氏が撤退を表明したことについて同じ民主党左派でサンダース氏と支持者が重なっていたウォーレン氏に言及してツイッターに投稿し、「サンダース氏が撤退だ。
ウォーレン氏よ、ありがとう。彼女がいなかったらサンダース氏はスーパーチューズデーでほとんどすべての州で勝っていただろう!」と投稿し、民主党の候補者選びをやゆしました。

 そのうえで「これは民主党や民主党全国委員会が望んだとおりのものだ。サンダース氏の支持者は共和党に来るべきだ。トレードだ!」と書き込み、熱狂的なことで知られるサンダース氏の支持者に対しバイデン氏ではなく、みずからを支持するよう呼びかけました。

 民主党の候補者選びの経緯
<混戦から始まる候補者選び>
民主党の候補者選びには当初、20人以上が名乗りを上げ、大混戦の様相を呈していました。

 ことし2月に候補者選びの党員集会や予備選挙が始まるまでに、
資金不足などを理由に撤退が相次ぎ、初戦のアイオワ州では事実上、中道派のバイデン前副大統領とブティジェッジ前サウスベンド市長、左派のサンダース上院議員とウォーレン上院議員の争いとなりました。

<序盤でバイデン氏低迷>
序盤では中道派ではブティジェッジ氏が予想以上の大躍進を遂げ、左派のサンダース氏も2戦目から連勝して、一気に全米の支持率で首位に立って最有力候補に躍り出ます。これに対しバイデン氏序盤の2戦では4位から5位と低迷し、全米の支持率も急落していきます。

転機はサウスカロライナ州での予備選>
 そのバイデン氏の巻き返しの大きな
転機となったのが2月29日に行われた4戦目のサウスカロライナ州での予備選挙でした。南部のサウスカロライナ州は民主党の重要な支持基盤のアフリカ系アメリカ人の割合が高く、バイデン氏はオバマ前大統領を支えた実績を訴えて2位のサンダース氏に大差をつけて初めて勝利します。

 これを機に民主党の
中道派でバイデン氏一本化の流れが急速に強まり、ブティジェッジ氏やクロブシャー上院議員が相次いで撤退してバイデン氏支持を表明。

 その勢いを受けて臨んだ先月3日の「スーパーチューズデー」で、バイデン氏は14州のうち9州を制し、中道派の候補者の本命として大きく躍進します。サンダース氏から全米の支持率で首位の座を奪い返したバイデン氏は、先月10日と17日の予備選挙でも9州のうち8州で勝利し、大統領候補の指名獲得に必要な代議員の数でもサンダース氏との差をさらに広げていました。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で集会や選挙運動の抑制も求められ、予備選挙の延期を決める州が相次ぐ中、危機管理での実績を訴えるバイデン氏に対し、サンダース氏は挽回をはかる機会を見いだせないまま苦しい戦いを迫られていました。
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 この一連の民主党の各州の
予備選挙は、まだすべての州で終了しておらず、投票していない有権者が全米の各地にいる筈ですが、形式的な手続きは残っているとしても、実質的にはこれで選挙戦は終了し候補者選びは終了したと言えます。

 記事ではバイデン氏は、サウスカロライナ州の勝利が転機になり、「民主党の中道派でバイデン氏一本化の流れ急速強まり、ブティジェッジ氏やクロブシャー上院議員が相次いで撤退してバイデン氏支持を表明」とありますが、この辺の動きが、全国の有権者の意向を反映したものであると言う根拠はありません。

 果たしてサウスカロライナ1州の動きが本当に転機だったのか、誰か転機にした者がいるのか何とも言えません。

 多くの
有権者が投票権を行使しないまま候補者選びが終了したのは極めて異常な事です。
 今回は新型コロナウィルスの影響が大ですが、それがなくても日程が後半になっていると、それまでに過半数の代議員を獲得した候補者がいると、
選挙日程が遅い残りの州の有権者は、投票権を行使しないうちに候補者選びが終了して、選挙戦が終わってしまうことになります。

 反対に各州の予備選挙の結果が、
接戦のまま最終州での選挙に突入すれば、その州の有権者が実質的な候補者決定権を持つ結果となります。

 どちらにしても予備選挙が州単位の選挙区による分割・
時差投票により行われることと、選挙期間が長いこと、選挙制度の多くが間接選挙である事などと相まって、すべての国民(党員有権者)が平等に選挙権を行使しているとは言いがたい現状です。
 その結果、国民の意向がストレートに結果に反映せずに、候補者の
途中での撤退など、周囲の有力者の作戦・思惑が影響を及ぼす余地があり、選挙の公正さに疑問の余地がある事は否めません。

令和2年4月13日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ