F105
広島と真珠湾は釣り合うか
 −真珠湾、広島、北方領土、外交上の敗北を敗北と認識できない安倍総理−

 12月5日の読売新聞は、安倍総理の真珠湾訪問について、「首相、オバマ氏と真珠湾訪問へ…犠牲者を慰霊」という見出しで、次のように報じていました。
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首相、オバマ氏と真珠湾訪問へ…犠牲者を慰霊

2016年12月5日23時5分 読売

 安倍首相は5日、今月26、27日に米ハワイを訪問し、オバマ米大統領とともに真珠湾(パールハーバー)を訪れ、日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊すると発表した。

 
日本の首相が米大統領とともに真珠湾を訪れるのは初めて。5月にはオバマ氏が現職大統領として初めて被爆地の広島を訪れており、真珠湾訪問で未来志向の日米関係を強調したい考えだ。

 首相は首相官邸で記者団に対し、「犠牲者の慰霊のための訪問だ。二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという未来に向けた決意を示したい」と強調した。現地では来年1月で退任するオバマ氏と最後の首脳会談も行う。首相は「(第2次安倍内閣発足以来の)4年間を総括し、未来に向けてさらなる同盟の強化の意義を世界に発信する機会にしたい」と述べた。

 米政府も5日、27日に首脳会談を行い、両首脳が真珠湾攻撃で沈没した戦艦アリゾナの上に立つ追悼施設「アリゾナ記念館」をともに訪れると発表した。首相は同記念館で献花し、所感を述べる見通しだ。米国内では日米開戦の端緒となった真珠湾攻撃への批判は根強いが、所感は慰霊に重きを置き、直接の謝罪の言葉は盛り込まない方向で調整している。真珠湾には岸田外相も同行する予定だ。

 首相は2015年4月に歴代首相として初めて米議会の上下両院合同会議で演説した際、真珠湾に触れた上で、「深い悔悟」の念を示した。今回、自ら真珠湾を訪問することで、「和解」を国内外に印象付けるとともに、来年1月のトランプ次期大統領の就任前に、日米同盟の強固さをアピールする狙いがあるとみられる。

 日本政府は、オバマ氏が年末はハワイで休暇を過ごす日程を踏まえ、米側に真珠湾への同行を水面下で打診していた。首相は先月ペルーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で、正式に提案し、オバマ氏が了承したという。

 オバマ氏は今年5月27日、現職米大統領として初めて被爆地の広島市を訪れ、首相とともに平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花した。被爆者とも面会し、「核なき世界」の実現に向けた所感を述べたが、原爆投下について謝罪はしなかった。

 真珠湾では、08年12月に河野洋平衆院議長がアリゾナ記念館で献花した。日米両国は12月8日(現地時間)、攻撃から75年を迎えるのにあわせた合同追悼式典を真珠湾で初めて開催する。
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 この記事を読んでいくつか不可解なことがあります。
安倍総理とオバマ大統領の真珠湾訪問は
突然発表されましたが、これは突然決まったことなのでしようか。
 決してそうではないと思います。記事でも今年5月の
オバマ大統領の広島訪問と関連づけて論じていますが、おそらくその時に安倍総理の真珠湾訪問は交換条件として決められていたのだと思います。当時からアメリカの中では、オバマ大統領が広島を訪問するなら、安倍総理は真珠湾を訪問すべきだという主張がありました。

 それではなぜそのことをその時に発表しなかったのでしょうか。なぜ直前になるまで隠していて、急に決定したかのごとく発表したのでしょうか。

 先月ペルーのリマで安倍総理とオバマ大統領が会った時は、これが
最後の機会だと報じられていました。日本のマスコミは今回の動きを知らなかったのでしょうか。それにしては記事から驚きのトーンが感じられません。知っていて報じなかったのでしょうか。それはマスコミとして最悪だと思います。

 安倍総理は隠していたのだと思います。広島と真珠湾を交換条件にしたのでは、オバマ大統領の
広島訪問の輝きが薄れ、相互訪問自体に反対意見が出る恐れさえ有るからだと思います。

 つまり
安倍総理は国民を欺いたのです。広島と真珠湾はどう考えても釣り合いません。
 犠牲者の数も10万人(長崎を含めれば
20万人)対2千人、広島は犠牲者の大半が非戦闘員の一般市民であるのに対して、真珠湾はほとんどが任務に就いていた軍人・兵士などの戦闘員です。

 
真珠湾攻撃に至る過程を無視して日本の総理大臣が、真珠湾を訪問することは、日本を戦争犯罪者として断じる彼等の歴史観に屈することになると思います。
 今まで、日本の総理大臣がしてこなかったことを彼がすることは、日本にとって大きなマイナスでしか有りません。
 これは新たな
「反日」の1ページを追加する愚行です。

 安倍総理は政治家として、
戦後処理の見直しを主張していました。靖国神社について、村山談話について、河野談話について、それぞれ見直しを主張していました。
 しかし、結果的にはどれも見直しをなし遂げたとは言えません。むしろ
追認を余儀なくされたと言う方が正しいと思います。特に靖国神社については、前任の小泉総理よりも大幅に後退してしまいました。

 この安倍総理がまもなく、
ロシアのプーチン大統領と会談しますが、大きな不安を感じます。彼は今までプーチン大統領とは特別の信頼関係があるかのように言ってきましたが、実積らしい実績は皆無と言って良いと思います。
 
ビザなし渡航程度のことではぐらかされ、それでも失敗を認めないなどと言う悲惨な結末にならないことを祈るばかりです。

平成28年12月10日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ
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平成28年12月16日 (追記)

領土問題で、何の成果も認められない、安倍・プーチン会談

 16日のNHKテレビニュースは日露首脳会談の結果について、「安倍首相 四島で共同経済活動へ 平和条約締結へ重要な一歩」と言うタイトルで、下記のように報じていました。
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安倍首相 四島で共同経済活動へ 平和条約締結へ重要な一歩
12月16日 16時08分 NHK

 安倍総理大臣は、ロシアのプーチン大統領との2日間にわたる日ロ首脳会談を終えた後、共同記者会見に臨み、焦点となっていた北方領土での共同経済活動について、「平和条約締結に向けた重要な一歩」として、四島を対象に行うための
特別な制度を設ける交渉を開始することで合意したことを明らかにしました。また、両首脳は、元島民の自由な往来を可能にするための案を検討することでも一致しました。

 
安倍総理大臣とロシアのプーチン大統領は、15日安倍総理大臣の地元・山口県長門市で首脳会談を行ったのに続き、16日東京に移動して、総理大臣官邸で2日目の会談を行いました。
 そして、会談の終了後、そろって記者会見に臨み、安倍総理大臣は、北方領土問題を含む平和条約交渉について、「戦後71年を経てもなお、日本とロシアの間には平和条約がない。この異常な状態に私たちの世代で終止符を打たなければならない。その強い決意を確認した」と述べました。
 そのうえで、安倍総理大臣は、焦点となっていた北方領土での共同経済活動について、「平和条約締結に向けた重要な一歩」として、四島を対象に行うための特別な制度を設ける交渉を開始することで合意したことを明らかにしました。

 そして、安倍総理大臣は、「この共同経済活動は、両国の平和条約に関する立場を害さないという共通認識のもとに進められるもので、日ロ両国にのみ創設されるものだ」と述べました。

 さらに、安倍総理大臣は、北方領土の元島民の平均年齢が81歳を超えていることを踏まえ、人道上の理由から、元島民の自由な往来を可能にするための案を検討することで一致したことも明らかにしました。

 また、記者会見に先立って、8項目の経済協力プランをめぐり政府間や企業間で80の合意文書が交わされ、民間を含めた
日本側の経済協力は総額で3000億円規模にのぼるということです。

 これに関連して、安倍総理大臣は記者会見で、来年、ロシアのウラジオストクで開かれる『東方経済フォーラム』に出席する意向を示したうえで、その際に協力プランの進ちょく状況を確認する考えを示しました。

(中略)

元島民は

 択捉島の元島民で、北海道根室市の鈴木咲子さん(78)は、自宅のテレビで共同記者会見を見守りました。
鈴木さんは、「難しい問題と思っていましたが領土問題で前進がなかったことには少しがっかりしています。しかし、元島民が四島に行きやすくなることはうれしいし、前進だと思います。日ロ関係は少し動き始めたように感じるので、あとは立ち止まらないで前に進んでほしい。希望は捨てていません」と話しました。

 歯舞群島の志発島出身で北海道根室市の木村芳勝さん(82)は、自宅のテレビで共同記者会見を見守りました。
木村さんは、「領土の返還についての確かな言葉が1つも出てこなかったことが残念です。自分たちに残された時間は長くはないので、生きているうちに島の返還をなんとか進めてほしいです」と話していました。

(中略)

 共産党の志位委員長は、党本部で、記者団に対し、「国民が何よりも願ったのは、領土問題の進展だったが、首脳会談では、
全く進展がなかった。安倍総理大臣は、『共同経済活動が、平和条約の締結に向けた第一歩になる』と強調したが、その保証は全くなく、逆に四島に対するロシアの統治を政治的・経済的に後押しするだけだ。全体を通して見ると、前進どころか、後退したのではないかという不安が強い」と述べました。

(以下略)
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経済協力では、具体的な合意がされたにもかかわらず、領土問題では、報道を見る限り何の具体的成果もありません。特別な制度」などは何の意味もありません。
 
プーチン大統領は平和条約の必要性は訴えていましたが、一言も「領土問題」には触れていないようです。これでは危惧したとおり、単に旧島民の「ビザなし渡航」程度で終わるのではないでしょうか。
 共産党の批判が一番当たっているようで残念です。

 
敗北を正しく敗北と認識できれば、雪辱の可能性はゼロではありませんが、残念ながら彼にはその能力がないようです。敗北を敗北と認識できなければ、その可能性はゼロだと思います。