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中国残留日本人孤児はなぜ永住帰国するのか

 11月2日の朝日新聞朝刊に、中国残留日本人孤児の最後の集団調査が行われるニュースが大きく報道されていました。

 社説では、「大きな成果を上げた集団訪日だが、厚生省は来年度から見直す方針だ。今後は職員を中国に派遣し、孤児との面接調査で永住帰国できるようにする。これまでは集団訪日に加わることで日本への永住帰国への道が開けた。高齢や病気、障害を抱え手参加できない孤児の人達には、永住帰国は遠かった。・・・政府は最後のひとりまで、肉親探しの手を尽くさねばならない。・・・」と書かれていますが、同時に、孤児を支援している日中友好・残留孤児虹の会の松倉達夫理事の、「最近来る人々は、孤児になった当時は幼児で、訪日調査をしても証拠品や証人がなく、肉親がほとんど見つからない」という言葉も紹介されています。肉親探しが期待できない中での調査の目的は、永住帰国しかありません。調査の目的が当初の「肉親探し」から「永住帰国」へと大きく様変わりしています。

 孤児達は日本に帰国しないと幸福にはなれないのでしょうか。中国では幸福には暮らせないのでしょうか。「孤児」とは言っても、今はもちろん子供ではありません。物心つく前から中国で育ち、中国に生活基盤があり、中国人の配偶者と結婚し、中国人として生まれ育った子供がいます。そう簡単に家族を連れての帰国はできないと考えるのが普通ではないでしょうか。

 同じように外国に住む人達である在日韓国人は、自分たちを定住外国人と称し、帰国など考えたこともありません。韓国政府も彼らの帰国を受け入れようとはしていません。韓国政府、韓国人が執拗に要求してきた「永住権」とは日本での永住権であって、祖国韓国への永住帰国ではありません。これに対して日本人孤児達が日本に帰ってくるのはなぜでしょうか。それは中国が孤児にとって住みにくい国だからだと思います。孤児にとってだけでなく、中国人にとっても住みにくいからだと思います。

 記事によると中国残留日本人孤児の総数は約2,700人で、その内2,116人が今までに調査のため来日し、身元判明者は665人だそうです。そして、孤児全体の約85%がすでに日本に帰国し、中国に残っているのは400人ほどだそうです。また、国費で永住帰国したのは、残留時に孤児より年長だった人(少年、成年)もあわせて約6,000所帯、19,000人に近く、自費で帰国した所帯はその数倍と言われているそうです。二世の大半は、呼び寄せ家族として自費をはたいて日本へ来たとのことです。

 つまり、帰国した孤児本人約2,300人に対して、少なくてもその10倍以上の中国人(孤児の配偶者、子供やその家族)が日本に入国したことになります。帰国は孤児本人にとっては祖国日本への帰国であっても、家族にとっては祖国中国を離れることになります。「祖国」という点だけから考えると、家族の内のたったひとりの祖国への帰国のために、その他の家族全員が祖国を離れるというのは、どう考えても合理的な選択ではないと思います。

 もし、孤児達が住んでいるのが中国ではなく、日本と同じように豊かで自由な国な国、たとえばアメリカであったら、孤児達は誰も祖国に永住帰国しようとはしないと思います。孤児達の祖国に向ける思いは分かりますが、この永住帰国は貧しい国から豊かで自由な国への移住に過ぎないと思います。そして、孤児達の陰に隠れて大量の中国人移民が日本に入国しました。この実態が分かった頃から、日本人のこの問題に向ける目は醒めたものになっていったと思います。

平成11年11月3日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ