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中国における「戦犯裁判」記録の信憑性

 「正論」6月号の「朝日・岩波が報じる中国戦犯供述書の信用度」を読みました。新聞によって、「1956年中国の日本人戦犯裁判で、有罪判決を受けた旧日本軍人の自筆供述書の一部が明らかになり、日本軍の『南京大虐殺』、『細菌作戦』、『従軍慰安婦の強制』が裏付けられた」と報道されたことについては、私も信用できないと思っていました。

 この新聞報道は中国の裁判記録を無条件に真実と信じ込んでいるようですが、本当に真実でしょうか。非常に疑わしいと思います。現在の中国で行われている政治犯、一般刑事事件の裁判等の様子を見ると、即決裁判で何十人もの被告人に一度に死刑判決が言い渡され、その場で死刑が執行されるなど、我が国で行われている裁判とは似ても似つかぬ、裁判と呼べる代物ではないことがわかります。以前、文革四人組の裁判が公開されましたが、権力闘争に勝った者が敗れた者を断罪する政治ショー以外の何ものでもありませんでした。証拠や証人に対するに対する厳密な検証、被告人の権利の保障等がまるでありません。はじめからできているシナリオ通りに進行する茶番劇でした。

 敗戦後ソ連や中国に抑留された軍人がいかに過酷な扱いを受け、洗脳されたかを証明する資料はいくらでもあります。日本人で戦争犯罪者として処刑されたものの遺書には、いかに不当で、一方的な裁判であったかを訴えるものが多数あります。はっきり言ってこの種の中国の裁判が真実を明らかにするものであるとは到底思えません。

 またこの資料がなぜ、今頃明らかにされたかについても疑念が残ります。新聞の報道では、「今回中国側からでてきた背景には、最近『侵略の歴史』を見直そうとする日本の動きを警戒、日本側に改めて侵略戦争への反省を促そうとしていることがありそうだ」とのことで、元々動機が政治的なものであることは明らかです。田辺敏雄氏の言うとおり、本人が死んで否定できなくなるのを待っていた、というのは妥当な見方だと思います。

 日頃日本の刑事裁判で自白の任意性、信憑性に厳しい条件を付けている人たちが、日本軍人の嫌疑については、その自白を無条件に受け入れることは理解できません。中国が全裁判記録を公表し、日本人学者の自由な調査を認めるならまだしも、政治的な思惑で一部を公表するなどでは、とうてい信憑性はありません。

平成10年5月17日     ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る     F目次へ