F25
憲法と教育基本法と新聞倫理綱領

 12月24日の朝日新聞の「天声人語」は、教育改革国民会議の教育基本法改正の提案を、次のように批判していました。

 教育基本法を読んだことのある人は、どのくらいいるだろうか。いわば、教育の憲法だ。その法律を〈政府は見直す必要がある〉と、教育改革国民会議が提案した。
 新しい時代には、それにふさわしい基本法を、という理由である。同法の施行は1947年。たしかに新しいとはいえない。しかし、古いからいけない、時代に合わない、とも一概には言えまい。何はともあれ、読み返してみた。・・・
〈われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである〉などと前文にある。
 続いて教育の目的、教育の方針、教育の機会均等などが記される。いちいち、もっともだ。なぜ見直さなければいけないのか、コラム子には合点がいかない。・・・
 では、なぜ見直すのか。前文は、憲法をたたえている。そのあたりが気に入らない人でもいるのだろうか。・・・


 教育基本法に問題があるのは、敗戦後の混乱期(昭和22年3月)に占領軍の指示のもとに作られたもので、政治的な色彩が強いからだと思います。今読み直してみると、前文で、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して・・・」とか、「ここに、日本国憲法の精神に則り、・・・」とあり、日本を改造しようと言う占領軍の意図が露骨に現れています。

 日本新聞協会は今年6月21日、同じように戦後まもなく(昭和21年7月)占領軍の指示のもとに作られた、新聞倫理綱領を全面的に改定しました。改定と同時に発表された渡辺会長(読売新聞社長)の話を見ると、「・・・それから半世紀余、社会・メディア状況が激変するなかで、旧綱領に込められた基本精神を継承しつつ、本日、二十一世紀にふさわしい新しい新聞倫理綱領を制定した」などとあるだけで、改訂した理由は明確ではありません。

 旧綱領は、「日本を民主的平和国家として再建するに当たり、新聞に課せられた使命はまことに重大である」に始まり、 新聞の自由や 公正、寛容、指導・責任・誇り、品格などについて謳われているもので、それだけを見れば「いちいち、もっとも」なことばかりで、間違ったことを言っているわけではありません。それなのに、新聞業界は綱領を改定しました。朝日新聞はこの綱領改定に対して、今回の教育基本法の改定提案と同じく、「綱領の趣旨はもっともなことばかりだ、なぜ、見直さなければいけないのか。合点がいかない」といって改訂に反対したのでしょうか。

 新聞業界は敗戦の混乱期に占領軍に指示されて作った新聞倫理綱領を、業界の精神的支柱としての綱領として戴いていることを潔しとしなかったのだと思います。それは当然のことです。内容のどこが悪いかというレベルの問題ではありません。自分たちの綱領が部外者、しかも外国人に指示されて作られたとなれば、そんな正当性に欠ける綱領を掲げて活動していけないと感じるのは当然であると思います。

 教育基本法を改定する必要があるのも、新聞倫理綱領の場合と全く同じ理由です。占領軍の政治的意図が透けて見えるような教育基本法は、わが国の教育の根本法規としてふさわしくないのです。わが国の教育を占領軍の呪縛から解き放つことに教育基本法改定の意義があるのです。

平成12年12月26日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ



新聞倫理綱領
                     2000(平成12)年6月21日制定

 21世紀を迎え、日本新聞協会の加盟社はあらためて新聞の使命を認識し、豊かで平和な未来のために力を尽くすことを誓い、新しい倫理綱領を定める。

 国民の「知る権利」は民主主義社会をささえる普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される。新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい。
 おびただしい量の情報が飛びかう社会では、なにが真実か、どれを選ぶべきか、的確で迅速な判断が強く求められている。新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである。
 編集、制作、広告、販売などすべての新聞人は、その責務をまっとうするため、また読者との信頼関係をゆるぎないものにするため、言論・表現の自由を守り抜くと同時に、自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない。

 自由と責任 表現の自由は人間の基本的権利であり、新聞は報道・論評の完全な自由を有する。それだけに行使にあたっては重い責任を自覚し、公共の利益を害することのないよう、十分に配慮しなければならない。

 正確と公正 新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである。

 独立と寛容 新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する。

 人権の尊重 新聞は人間の尊厳に最高の敬意を払い、個人の名誉を重んじプライバシーに配慮する。報道を誤ったときはすみやかに訂正し、正当な理由もなく相手の名誉を傷つけたと判断したときは、反論の機会を提供するなど、適切な措置を講じる。

 品格と節度 公共的、文化的使命を果たすべき新聞は、いつでも、どこでも、だれもが、等しく読めるものでなければならない。記事、広告とも表現には品格を保つことが必要である。また、販売にあたっては節度と良識をもって人びとと接すべきである。


 渡辺恒雄日本新聞協会会長の話=旧新聞倫理綱領は、占領下にありながら新聞界の諸先輩が情熱を傾けて制定し、これを実践する団体として新聞協会が設立された。それから半世紀余、社会・メディア状況が激変するなかで、旧綱領に込められた基本精神を継承しつつ、本日、二十一世紀にふさわしい新しい新聞倫理綱領を制定した。新聞の責務は、正確・公正な記事と責任ある論評によって公共的・文化的使命を果たすことにあり、新綱領のもと、新聞協会定款の「目的」の第一に掲げられている「全国新聞・通信・放送の倫理水準の向上」のために、いっそう努力していきたい。


旧・新聞倫理綱領

 日本を民主的平和国家として再建するに当たり、新聞に課せられた使命はまことに重大である。これを最もすみやかに、かつ効果的に達成するためには、新聞は高い倫理水準を保ち、職業の権威を高め、その機能を完全に発揮しなければならない。
 この自覚に基づき、全国の民主主義的日刊新聞社は経営の大小に論なく、親しくあい集って日本新聞協会を設立し、その指導精神として「新聞倫理綱領」を定め、これを実践するために誠意をもって努力することを誓った。そして本綱領を貫く精神、すなわち自由、責任、構成、気品などは、ただ記者の言動を律する基準となるばかりでなく、新聞に関係する従業者全体に対しても、ひとしく推奨さるべきものと信ずる。

第1 新聞の自由

 公共の利益を害するか、または法律によって禁ぜられている場合を除き、新聞は報道、評論の完全な自由を有する。禁止令そのものを批判する自由もその中に含まれる。この自由は実に人類の基本的権利としてあくまでも擁護されねばならない。

第2 報道、評論の限界

 報道、評論の自由に対し、新聞は自らの節制により次のような限界を設ける。
イ 報道の原則は事件の真相を正確忠実に伝えることである。
ロ ニュースの報道には絶対に記者個人の意見をさしはさんではならない。
ハ ニュースの取り扱いに当たっては、それが何者かの宣伝に利用されぬよう厳に警戒せねばならない。
ニ 人に関する批評は、その人の面前において直接語りうる限度にとどむべきである。
ホ 故意に真実から離れようとするかたよった評論は、新聞道に反することを知るべきである。

第3 評論の態度

 評論は世におもねらず、所信は大胆に表明されねばならない。しかも筆者は常に、訴えんと欲しても、その手段を持たない者に代わって訴える気概をもつことが肝要である。新聞の高貴たる本質は、この点に最も高く発揚される。

第4 公正

 個人の名誉はその他の基本人権と同じように尊重され、かつ擁護さるべきである。非難された者には弁明の機会を与え、誤報はすみやかに取り消し、訂正しなければならない。

第5 寛容

 みずから自由を主張すると同時に、他人が主張する自由を認めるという民主主義の原理は、新聞編集の上に明らかに反映されねばならない。おのれの主義主張に反する政策に対しても、ひとしく紹介、報道の紙幅をさくがごとき寛容こそ、まさに民主主義新聞の本領である。

第6 指導・責任・誇り

 新聞が他の企業と区別されるゆえんは、その報道、評論が公衆に多大な影響を与えるからである。
公衆はもっぱら新聞紙によって事件および問題の真相を知り、これを判断の基礎とする。ここに新聞事業の公共性が認められ、同時に新聞人独特の社会的立場が生まれる。そしてこれを保全する基本的要素は責任観念と誇りの二つである。新聞人は身をもってこれを実践しなければならない。

第7 品格

 新聞はその有する指導性のゆえに、当然高い気品を必要とする。そして本綱領を実践すること自体が、気品を作るゆえんである。その実践に忠実でない新聞および新聞人は、おのずから公衆の支持を失い、同志の排斥をこうむり、やがて存立を許されなくなるであろう。ここにおいて会員は道義的結合を固くし、あるいは取材の自由を保障し、または製作上の便宜を提供するなど、互いに助け合って、倫理水準の向上保持に努めねばならない。
かくて本綱領を守る新聞の結合が、日本の民主化を促進し、これを保全する使命を達成すると同時に、業界を世界水準に高めることをも期待するものである。

(1946年7月23日制定・1955年5月15日補正)