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なぜ日本にだけ「近隣諸国条項」があるのか

 3月5日の朝日新聞に、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書が137カ所の修正によって、検定合格の見込みであることが報じられていました。

 記事によると修正の具体例として、「韓国併合は『国際関係の原則にのっとり、合法的に行われた』などと記述されていたが、『合法的』という表現がなくなった。さらに『日本は韓国内の反対を武力で押し切って、併合を断行した』という趣旨の記述が加わった」とか、「日中戦争の『南京事件』に関しては『戦争中だから、何がしかの殺害があったとしても、ホロコーストのような種類のものではない』と記述した部分が削除されたという」などとあり、日韓併合や、「南京大虐殺」などについて、「つくる会」の主張の核心と思われるところが修正を命じられ、ズタズタの状態にされているようです。
 これまで、反日・自虐教科書は、出版社、著作者に問題があると考えていましたが、今回の検定により、問題があるのは文部科学省自身であることが明らかになったと思います。

 このような検定になった背景には、教科書の検定基準に「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がなされていること」と言う、いわゆる「近隣諸国条項」の存在があると考えられますが、日本の学校教科書を検定するに当たり、どうして近隣諸国のことを考えなければならないのでしょうか。中国や韓国でも教科書の編集にあたっては、近隣諸国に配慮して内容を決めているのでしょうか。

 産経新聞に連載されている、小森義久前中国総局長の「日中再考」と言う連載記事によると、中国の教科書は「南京大虐殺」について、虚構の数字を織り交ぜて日本の極悪非道ぶりを強調しているだけでなく、「・・・日本への憎しみや恨みは教育のありとあらゆる分野でこれでもか、これでもか、と教えられるのだ」(3月17日朝刊)そうです。中国は自国の教科書を作るにあたって、近隣である日本に対して何の配慮もしていません。韓国の教科書も同様だと思います。なぜ日本だけが近隣諸国に配慮しなければならないのでしょうか。

 教科書に史実に反する記載があってはならないことです。しかし、何が史実であるかは科学的な議論により決定すべきであって、隣国への配慮により決定されるべき事ではないと思います。そして、無数にある史実の中で何を教えるべきか、何を教科書に記載すべきか、その選択は国によって当然異なります。日本人にとっては重要なことでも中国人・韓国人には重要でない史実もあれば、その逆に、中国人・韓国人には重要な史実であっても、日本人にとっては不要な史実も当然あるはずです。「従軍慰安婦」や創氏改名は、仮に韓国人にとっては重要な史実であっても、日本人にとっては教科書に書いて授業で教えるほど重要な史実ではありません。歴史教科書の内容がすべての国の国民にとって共通である必要はないのです。

 フランスとドイツ、ロシアとポーランド、インドとパキスタン、イランとイラク、アメリカとメキシコなどの例を考えても、近隣諸国は利害が衝突した歴史があるのが普通ですから、過去の歴史について認識を一致させるのは無理であり、その必要もないと思います。今回、中国と韓国は足並みをそろえて日本を批判していますが、朝鮮戦争について、この両国の歴史認識が一致しているとは思えません。この点については両国はお互いの教科書についてなぜ何も言わないのでしょうか。朝鮮戦争だけではありません。ベトナム戦争について中国、韓国、アメリカの歴史認識は一致しているのでしょうか。アヘン戦争について、中国とイギリスの教科書は同じ歴史認識に立って書かれているのでしょうか。

 日本以外で教科書の内容が外交上の問題になった例は聞いたことがありません。他国の教科書に何が書かれていようと、干渉しないのが世界の常識だと思います。わが国の近隣諸国を巻き込んだ、教科書検定をめぐる議論はこの常識から逸脱しています。日本の教科書検定が世界の常識から逸脱した原因は、もともと日本の国内問題であった教科書の内容をめぐる論争に、自ら外国の干渉を招来した経緯があるからだと思います。

平成13年3月18日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ