F56
小泉首相のマスコミ批判を報じなかった読売新聞

 8月15日の読売新聞夕刊は、紙面の多くを割いて小泉首相の靖国神社参拝をめぐる記事を掲載していました。しかし、記事の中で、小泉首相の記者会見での発言は「発言要旨」としてわずか1300字ほどに要約されたものが記載されているに過ぎず、他の記事の大半は読売新聞自身の見解や他の批判的な意見を交えた記事ばかりでした。
 小泉首相の発言は国民・読者の関心事であり、これを詳細かつ正確に報じるのは新聞の基本的な使命のはずです。

 8月17日の産経新聞によるとこの点について、首相官邸では、
「マスコミ報道だけでは首相の発言がつまみ食いされるケースが多く、首相の率直な気持ちが国民に伝わらない(官邸関係者)」と言う判断により、記者団に参拝への“思い”を吐露したインタビューの全文が、首相官邸のホームページ(HP)に掲載されたそうです。

 そのホームページを見ると小泉首相の発言は、字数にしておよそ読売新聞の「発言要旨」の3倍ほどの内容がありました。読売新聞は小泉首相の発言の3分の2をカットしたことになります。

 小泉首相の参拝が妥当であったかどうかは、小泉首相の発言を聞いた読者がそれぞれ判断すべきことであり新聞社が誘導すべきではありません。新聞社の意見の表明や、他の人たちの批判的な意見の紹介は、小泉首相の発言や参拝の意図を詳細に、かつ正確に報じたあとになされるべきものだと思います。

 読売新聞の記事と官邸のホームページを読み比べると、読売新聞は次の部分を完全にカットしています。
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【質問】 2回目の参拝の時の所感の中では、総理は、終戦記念日やその前後の参拝にこだわって、再び内外に不安や警戒を抱かせることは、私の意に反するとしていました。今日の参拝は、その所感と矛盾するのではありませんか。

【小泉総理】・・・いつ行っても参拝に、なんとか争点にしようとか、混乱させようとか、騒ぎにしようとか、国際問題にしようとかいう勢力があるんです。これに対してね、いけないと言ったって、それは、日本は言論の自由が認められてるんですから、どうにもなりません。ですから、いつ行ってもこういう騒ぎにしようという勢力があるんですから、8月15日に行っても、適切じゃないかなと。

 また、むしろこだわっているのは、毎回、こだわろうという勢力がいるんですよ、私が、今まで靖国神社の問題も、質問された時以外は答えたことがないんですよ。自ら、靖国問題をこうだああだと言ったことはなくて、いつも皆さんの質問に答えて言っているわけです。いろいろな説明や他のことも言いたいんですけれども、一番マスコミが取り上げるのは靖国参拝のことでしょ。そういうのは、やめた方がいいと言っても聞かないですから、マスコミは。いつでもこだわっているのはマスコミじゃないでしょうか、或いは、私に反対する方々じゃないでしょうか。そういうのも踏まえてね、これはいつ行っても同じだなと思いました。

(中略)

【質問】 今回の参拝が、総裁選に与える影響についてはどのようにお考えですか。

【小泉総理】 それは総裁候補自体の考え方と、マスコミの皆さんが争点にしたがっている面が強いですから、それいかんでしょうね。

(以下略)
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 小泉首相は「靖国問題」が「マスコミの問題」であることを完全に見通しています。この部分は「小泉発言」の核心をなす部分であると思います。だからこそ、読売新聞はこの部分を読者に知らせたくなかったのだと思いますが、発言の核心部分を報じなかった読売新聞は、もはやジャーナリストと呼ぶに値しません。

 小泉首相の記者会見の様子は実況中継されましたが、質問している記者達は「靖国問題」の当事者であり、もはや単なるジャーナリストではありません。小泉首相は「ジャーナリスト」を装った「反対勢力」の、「質問」を装った「批判」に対して誠実に答えていましたが、国民の代表でも読者の代表でもない、新聞企業の若手社員達の質問を総理大臣が受け付けて、これに誠実に答弁することに何ほどの意義があるのか、疑問を感じざるを得ません。彼らは業務上の立場を悪用して会社の私見を述べているに過ぎず、このような「記者会見」は、かえって、見ている者に、彼らがあたかも国民・読者の代表者であるかのごとき錯覚・誤解を生じさせて有害だと思います。

平成18年8月16日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ