F63
被爆者援護法の廃止を −既に役割は終わった−

 5月29日の読売新聞は、「原爆症、9人全員認定 新基準より広く」という見出しで、次のように報じていました。
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 原爆症の認定申請を却下された大阪、京都、兵庫3府県の被爆者9人(うち3人死亡)が、国に却下処分取り消しと1人300万円の損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審判決が30日、大阪高裁であった。井垣敏生裁判長は、「却下処分は個別的事情を軽視した結果であり、違法」と述べ、1審・大阪地裁判決を支持、全員の処分取り消しを国に命じた。・・・
 原告は、83〜71歳の男女9人(3人は2006年5月の1審判決後死亡)。7人が広島市、2人が長崎市で被爆し、
がんなどの疾病に罹患(りかん)したが、03年までに認定申請を却下された。疾病の内訳は、がん4人、白内障1人、甲状腺機能低下症2人、脳こうそく後遺症など1人、貧血1人。・・・

 井垣裁判長は・・・、そのうえで、がんの4原告のほか、白内障や甲状腺機能低下症などの5原告についても、「
加齢や他の要因も否定できないが、主因と裏付ける資料はなく、被爆との因果関係が肯定できる」と判断した。
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 一体、「被爆者援護法」は何のためにあるのでしょうか。報じられている内容から見ると、「被爆者」らの現実の疾患は
「がん」、「白内障」、「甲状腺機能低下症」、「脳梗塞後遺症」、「貧血」などであり、仮にそれらの疾患と被爆との間に因果関係があったとしても、実際の治療は通常のガン患者、白内障患者と大きく異なることはないのではないでしょうか。一般の医療保険制度、福祉制度で十分対応可能なのではないでしょうか。
 記事は、
「救済」という言葉を使っていて、被爆者として認定されないと、「救済されない」かの印象を受けますが、本当に彼等・彼女らは「被爆者」として認定されないと充分な治療が受けられないのでしょうか。

 被爆直後のような、
原爆特有の悲惨な症状で他の医療保険制度、福祉制度で対応することが不可能あるいは困難という状態であるならともかく、被爆との因果関係が否定できないとしても、今の一般の制度の中で対応可能であるならば、そもそも、被爆者援護法自体が不要であり、その役割を終えたと言うべきだと思います。

 裁判は
因果関係の有無が争点になっていますが、そもそも被爆者援護法の趣旨が国家賠償ではない以上、患者にとって充分な治療ができれば、因果関係にこだわる必要はないはずです。それにもかかわらず、被爆者とその支援者が因果関係にこだわり、被爆者の認定を求めるのは、被爆者として認定されると国から「手当」が支給されるからではないでしょうか。また、それによって国を加害者と位置づけたいからではないのでしょうか。
 被爆と因果関係のある疾患に罹ると、
なぜ手当が支給されるのかはなはだ疑問です。彼等だけを特別に優遇する根拠は乏しいと思います。財政困難な折から、このような不透明な手当は即刻廃止すべきだと思います。

平成20年6月8日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ