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日米同盟の幻想−60年安保改訂の意義
 
 3月1日の産経新聞のコラム「産経抄」は、小沢一郎民主党代表の「在日米軍縮小論」について、次のように論じていました。
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 小沢佐重喜氏は昭和20年代から40年代にかけて活躍した自民党政治家である。・・・
 自ら「安保改定は国家にとって極めて重要」との信念を語っていたが、何しろ社会党など野党の抵抗も激しい。
 5月19日夜、ついに特別委での強行採決に踏み切った。新聞によれば、小沢委員長はこのとき野党議員に突き飛ばされ、ネクタイを引きちぎられたという。文字通り体を張っての国会運営だった。当時の岸内閣にとっても「命がけ」の安保体制の確立だったのである ・・・。
 小沢氏は言うまでもなく民主党の小沢一郎代表の父親だ。その小沢代表が日米安保条約への疑義を表明している。24日には、日本に駐留する米軍について「第7艦隊だけで十分だ」と述べた。陸空軍や海兵隊も不要だというわけで、日米安保の根幹を否定する意見だ。
 父親たちが苦労して構築した安保体制だから順守すべきだとは言わない。しかし安保は国家百年の大計である。・・・
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 産経新聞は、当時の岸内閣が命がけで安保体制を確立したと言っていますが、そういう見方は正しいのでしょうか。その当否を判断するためには、まず、新安保体制が確立する以前の日米旧安保体制が、いかなる体制であったかを考える必要があります。サンフランシスコ講和条約と同時に、つまり日本の独立の条件として締結された日米旧安保条約は下記の通りです。(なお、インターネット上でこの日米旧安保条約の条文を掲載したものは非常に限られています)
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日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約 (旧日米安全保障条約)

 日本国は、本日連合国との平和条約に署名した。日本国は、武装を解除されているので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。

 無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態にある日本国には危険がある。よつて、日本国は平和条約が日本国とアメリカ合衆国の間に効力を生ずるのと同時に効力を生ずべきアメリカ合衆国との安全保障条約を希望する

 平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。

 これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する

 アメリカ合衆国は、平和と安全のために、現在、若干の自国軍隊を日本国内及びその附近に維持する意思がある。但し、アメリカ合衆国は、日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章の目的及び原則に従つて平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。

 よつて、両国は、次のとおり協定した。

第一条
 平和条約及びこの条約の効力発生と同時に、アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じようを鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる
第二条
 第一条に掲げる権利が行使される間は、日本国は、アメリカ合衆国の事前の同意なくして、基地、基地における若しくは基地に関する権利、権力若しくは権能、駐兵若しくは演習の権利又は陸軍、空軍若しくは海軍の通過の権利を第三国に許与しない
第三条
 アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は、両政府間の行政協定で決定する。
第四条
 この条約は、国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じたと日本国及びアメリカ合衆国の政府が認めた時はいつでも効力を失うものとする。
第五条
 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国によつて批准されなければならない。この条約は、批准書が両国によつてワシントンで交換された時に効力を生ずる。

以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で、日本語及び英語により、本書二通を作成した。

日本国のために
吉田茂

アメリカ合衆国のために
ディーン・アチソン
ジョージ・フォスター・ダレス
アレキサンダー・ワイリー
スタイルス・ブリッジス

(東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室)
[文書名] 日米安全保障条約(旧)(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約)
[場所] サンフランシスコ
[年月日] 1951年9月8日作成,1952年4月28日発効
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),444‐446頁.
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 この条約は要するにアメリカは何らの義務を負うことなく、日本に引き続き軍隊を駐留させることが出来、その期限は無期限であると言うことです。これは安全保障条約と言うより、
占領延長条約と言うべきです。こんな条約がある限り、日本は本当の独立国とは言えません。常識的に考えても、昨日まで日本を占領していた旧敵国の軍隊が、今日からは日本を守る同盟国軍などと言うことはあり得ないことです。

 岸内閣、小沢佐重喜ほかの当時の自民党の政治家が「命がけ」で取り組んだのは、占領状態の終結であったと思います。日米安保条約の改定の意義はここにあると思います。
 こういう視点から、今回の小沢一郎発言を見ると、彼の発言は「父親たちが苦労して構築した“脱占領”体制」を、さらに一歩進めんとするもので、評価に値するものだと思います。

平成21年2月28日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ

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令和4年5月25日 (追記)

 確かに「脱占領」という視点だけから見ると、小沢一郎の発言は、評価する部分がありますが、今回の「ウクライナ事態」を受けて考えると、アメリカの新安保の目的(狙い)が基地存続と“日本掌握”が主で、日本防衛はその手段に過ぎないとは言え、現在の日本の安保・外交上大きな力になっている一面は否定出来ません。