F83
「河野談話」の議論で考える、“談話”の効力

 3月15日の朝日新聞は、「朴大統領、河野談話継承『幸いなこと』安倍首相答弁に」と言う見出しで、次のように報じていました。
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朴大統領、河野談話継承「幸いなこと」 安倍首相答弁に
ソウル=中野晃    朝日新聞 2014年3月15日22時40分

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は、安倍晋三首相が慰安婦問題をめぐる河野官房長官談話を「見直すことは考えていない」と述べたことについて「幸いなことだと思う」と述べた。韓国大統領府が15日、明らかにした。

 朴大統領は「今後、慰安婦の被害者のおばあさんたちの傷が和らげられ、韓日関係や北東アジアの関係が強固になる契機となることを望んでいる」とも述べたという。・・・(以下略)
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 記事の見出しは、「河野談話継承」となっていますが、記事本文は「見直すことは考えていない」となっています。両者は一見すると同じことを言っているように見えますが、同じではないと思います。安倍総理は「安倍内閣で見直しはしない」と言っている(但し、菅官房長官は継承という言葉を使っています)のに、なぜ見出しは「継承」となるのでしょうか。

 談話には“継承”手続きが必要なのでしょうか。“継承”しないとどうなるのでしょうか。
 日本の政治史上数多くの談話が発表されましたが、談話が“継承”されたのは、“河野談話”と“村山談話”だけで、それ以外の談話は“継承”されていません。それらの談話は内閣の交代と共に失効してしまったのでしょうか。

 そもそも談話の効力(拘束力)とは一体どのようなものなのでしょうか。談話は法律とは違い、その拘束力が曖昧です。法的拘束力はないと言われています。また、有効期限も、改正手続きもありません。言いっ放しで終わるものです。
 未だかつて談話の改正案が提案されたり、談話の廃止が決定されたと言うこともありません。河野談話に限らず、“見直し”された談話などはないのです。

 あるものは時代の変化に合わなくなり、あるものはいつの間にか忘れ去られ、歴史の中に埋没していくのが“談話”の運命なのです。談話とは所詮その程度のものなのです。すべての談話の類いが継承されていたのでは、政権交代の意味がありません
 改正や廃止の手続きがないのは、そもそも将来にわたっての拘束力がないからか、あるいはそもそも将来を拘束するような内容を談話で語ることは適切ではないと考えられているからだと思います。

 “村山談話”と“河野談話”だけが、特別扱いされ、新内閣が誕生する度に継承の有無が問われるのは、問う人にこの談話を特別なものとし、拘束力がないにもかかわらず、拘束力を持たせようとする意図があるからだと思います(〇〇三原則と似ています)。談話の継承を明言させることによって、談話の効力が更新される、同じ談話が新たに発せられたのと同じ効果を生むと言うことを意図しているのだと思います。

 ところが、今回の「
安倍内閣でそれを見直すことは考えていない」という発言には、更新の効果は考えられません。安倍総理が何処まで考えて、「継承する」と言わずに、「見直すことを考えていない」と答弁したのかは分かりませんが、少なくとも「継承する」というよりはマシだったと思います。

 安倍内閣は談話の見直しはしないものの、検証は今後も継続すると言っています。検証に期待したいと思います。談話に対して否定的な検証を積み重ねて、談話を有名無実にすることは可能だと思います。

 安倍総理がこのタイミングで、今まで明確にしていなかった河野談話について、韓国への配慮から「見直さない」と明言を余儀なくされたことは、やはり失態と言わざるを得ず残念です。第一次安倍内閣の時と同じパターンで、その間何の工夫も進歩もなく、同じ失敗を繰り返したことには、失望を禁じ得ません。
 しかし、今後の検証の行方にかすかな希望を持ち続けたいと思います。

平成26年3月25日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ