G13
競争を否定する文部省 

 「教育課程審議会」は6日、現行の相対評価中心から、個々の子どもが学習目標にどの程度到達したかをみる絶対評価に改めることを柱とする中間まとめを発表しました。10月7日の朝日新聞は次のように伝えています。

 
・・・文相の諮問機関「教育課程審議会」は6日、現行の相対評価中心から、個々の子どもが学習目標にどの程度到達したかをみる絶対評価に改めることを柱とする中間まとめを発表した。・・・これに伴い指導要録も5段階などの評定を絶対評価にかえ、記述部分を充実させる
 ・・・新学習指導要領は、知識量に偏りがちな従来の「学力」でなく、自分で課題を見つけて学び考える力など「生きる力」を育てることを重視している。
 中間まとめは、こうした指導を生かすため、学級内のテストの成績順などで比べる相対評価でなく、個々の到達度を測る絶対評価に評価方法を改めると提言。筆記試験のほか教師による観察、面接、子どもの作品、ノート、リポートなども評価に使う。
・・・現在の評定は、「5」がクラスの何%などと、テスト成績を基本に割り振られている。いつも点数の低い子が努力して80点を取ったとしても、全体が平均80点なら、「4」や「5」はつかない。絶対評価にかわれば、授業を理解できたと判断して「4」「5」にすることも可能だ。

1.絶対評価は可能か
 絶対評価においては基準の取り方(問題の難易度)により、全員の通知票が「5」や「4」になったり、全員が「1」や「2」になったりする可能性がありますが、そのような評価は、評価として安定性のある有意義なものと言えるのでしょうか。それに何よりも、絶対評価のもととなる明確な基準があるのでしょうか。明確な絶対評価の基準がない中で、絶対評価を行うというのは少し無理があると思います。結果的に教師の主観で全員を評価することになってしまうのではないでしょうか。

2.別の問題の話のすり替え
 朝日新聞は、「いつも点数の低い子が努力して80点を取ったとしても、全体が平均80点なら、『4』や『5』はつかない。絶対評価にかわれば、授業を理解できたと判断して『4』『5』にすることも可能だ」と言っていますが、評価の対象が努力の過程でなく、学習の成果である限り、いつもの点数が高いか低いかは「絶対評価」の問題と関係ないと思います。いつもは点数の低い子の80点も、いつもは点数の高い子の80点も、80点は80点であることに変わりはありません。いつもは点数の低い子を、「授業を理解できたと判断して、『4』『5』に評価する」のは、「絶対評価か相対評価か」と言う問題とは別の、何を評価の対象とすべきかという問題ではないでしょうか。朝日新聞は何か勘違いをしていると思います。また、絶対評価のもとでは、全員が「1」か「2」を取る可能性もあるわけで、朝日新聞の指摘は、絶対評価のもとでは全員がいい成績を取れるという錯覚を読者に起こさせます。

 また、文部省の言う、「『学力』でなく、『いきる力』を評価の対象とする」とか、「筆記試験のほか教師による観察、面接、子どもの作品、ノート、リポートなども評価に使う」というのも、評価の対象を何にするかという問題であって、「絶対評価か、相対評価か」という問題ではありません。「絶対評価と相対評価」の問題と、「評価の対象を広げる」という問題が混同されています。それに、通知票や内申書で教師の記述部分を増やすと言うのは、客観的評価に代えて主観的評価を増やすと言う意味であって、絶対評価、相対評価の問題ではありません。

3.競争の否定
 文部省が相対評価を否定している根底には、競争を悪とみる考え方があると思います。10月6日、9日の産経新聞は、大阪の豊中市で一部の教師が、全生徒に一律Bの評価をしたと報じていましたが、文部省の発想はこれと同じだと思います。小学校の運動会のかけっこで順位をつけることすら、「優越感、劣等感を与える」と言った理由で、廃止した学校があると聞いたことがありますが、それと同じです。

 競争に弊害があるように見えるのは、競争そのものに問題があるのではなく、評価の対象が適切でないからだと思います。くだらない問題による暗記力を試すだけのテスト結果で評価することが間違いなのであり、生徒が学力を競い合うこと自体は悪いことではありません。競争そのものが誤りだったわけではありません。日本の社会に限らず人間の社会は競争社会です。競争を否定してぬるま湯に浸かっていると、世界の競争社会から置いて行かれます。社会でも、学校でも、公正で有意義な競争は否定すべきものではなく、むしろ活力を生み出す原動力として評価すべきものです。

 今の日本では、広島県や三重県などの学校で、教師の勤務評定で一律評価が行われていて、それが学校の荒廃と教育の破綻を招いています。勤務評定反対、主任制度反対にみられる教師の競争否定、悪平等主義が、教師の質の低下、学級崩壊、学校荒廃の主たる原因だと思います。「絶対評価」の美名に隠れた競争否定は、生徒の学力低下と学校の荒廃を招き、一層の塾依存をもたらすだけだと思います。

平成12年10月9日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ