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これで日本外交は大丈夫か −中距離核戦力全廃条約(INF)条文の日本語訳は外務省にもない−

 アメリカがINFを
離脱するというニュースが大きく取り扱われていますが、その表現が下記のように不統一です。1月31日のNHKニュースでは、「脱退」と言うのもありました。

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米 INF全廃条約
破棄へ 大統領 “核軍縮の新たな枠組みを“
2019年2月2日 12時13分INF全廃条約 NHK
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トランプ大統領、INF条約
離脱を正式表明
2019/02/13 読売
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米、INF条約
撤退検討か…露の条約違反理由に
2018/10/20 18:20 読売
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破棄というのはいかにも「条約破り」と言う印象で、これは韓国の“徴用工判決”のようなケースであり、条約の定める終了手続きに従って終了するのを“破棄”というのは間違いだと思います。

 この点を確認するため条約の条文を調べようと思って、
「中距離核戦力全廃条約」と言うキーワードで色々検索してみたのですが、条約文を見られるサイトは見つかりませんでした。

 そこで
外務省に問い合わせたところ、調べてから折り返し電話をすると言われ、しばらくの後、軍備管理軍縮課の担当者から下記のような回答、説明がありました。
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中距離核戦力全廃条約(INF)
条文の日本語訳は外務省にはない。
この条約はアメリカとソ連の
二国間条約で、日本は全く関係ないからだ。
また、日本語が国連の
公用語でもないので日本語訳は存在しない。
英語のものも外務省のホームページにはない。アメリカ国務省のホームページにある。
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「日本は全く関係ない」とあっさりと言われたのには正直驚きました。この件は日本国内で重大ニュースとして報じられています。世界の安全保障に関わる問題で、「日本は全く関係ない」では済まされません。

 外務省のホームページでは、肝心の条約の
条文は掲載していないにも拘わらず、この条約に関して過去に議論された多くの外国の資料は、英語のものも、ロシア語のものも日本語に翻訳してホームページに掲載しています。

 マスコミの報道が「破棄」「離脱」「撤退」「脱退」と、
不統一な理由が分かったような気がします。記者や論説委員の人達は、一体どうやって、何を確認して記事を書いたのでしょうか。
 条約の全文を日本語に翻訳したサイトが見つからず(無い?)、外務省にも日本語翻訳はおろか、英文のものも無いと言う事は、誰も
条文(英語はもちろん、日本語翻訳文も)なんか見たことがなくて記事を書いているのではないかと思います。それで正確な報道・論評が出来るでしょうか。「破棄」と「離脱」ではかなりの違いがあります。

 今回のアメリカの破棄(離脱?)が妥当かどうか、議論するに当たり、
安倍総理、河野外相以下の政府の担当者、衆・参の議員も条文を見ることなく議論を進めているのでしょうか、少し不安が募ります。

 外務省は日本にとって
重要な外交文書は、日本が直接の当事者でないものについても翻訳文を作成し、ホームページに掲載すべきだと思います。必要ならば公式文書ではないという注釈をつけてでも。

平成31年2月13日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ